あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「ハイ・ライフ」 (2018年)

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2018年 ドイツ 113分
監督:クレール・ドゥニ
出演:ロバート・パティンソン、 ジュリエット・ビノシュ

性的、哲学的(?)SF。 ★☆

 

久しぶりにこんなつまらない映画を観た(汗)。
ジュリエット・ビノシュが出ているSF映画ということで食指を動かしたのだが・・・。

 

この映画の評価は、超駄作だとする人と大傑作だとする人に分かれるらしい。中間的な評価はないようだ。
で、自分の評価があまりに低かった映画は普通は何も書かないのだが、これについては一応、私の感想を書いた。

 

ときどき地球上での短い回想場面が挟まれる他は、映画は一隻の宇宙船の中だけですすむ。
その宇宙船には、死刑囚や終身刑の犯罪人8人が乗っていた。
彼らは、女性医学者ディブス(ジュリエット・ビノシュ)のおこなう生殖実験の被験者だった。

 

宇宙船は単純な箱形をしており、通常のこういったSF映画で観るビジュアルとはかけ離れていて愛想がない。
船の内部も、どこかの簡易保養施設かといったふうで、科学的な雰囲気はほとんど無い。
要するにこの映画、通常のSF映画にみるような、夢あふれるといった空想力を書き立てる要素はまったくない。
どちらかといえば、中世の修道院を舞台にした映画の雰囲気なのだ。

 

囚人たちはディブスが分け与える薬によって支配下に置かれているようだ。
男性、女性が4人ずつ乗っているのだが、性交は禁じられていて、代わりに自慰部屋がある。
そこで採取した精液をディブスは人工授精をして、女性囚人の妊娠を試みている。

 

何の実験をしているのだ?
宇宙船はブラックホールを目指していて、そこへの突入が最終的な実験の目的らしいのだ。
何のため? 何か哲学的な寓意がある?

 

ディブス自身もわが子を殺した犯罪人のようだ。
そして途中では、全裸でほどいた長い髪を振り乱しての自らの自慰場面もある。
しかしその場面は艶かしいというよりも、何かに取り憑かれたオカルト映画の呪いの場面のようであった。

 

長い年月が経ち、乗組員たちはひとりの男を残してみんな死んでしまう。
そして男の手元には人工授精で生まれた女の子がいる。
赤子をあやし、食事を与え、宇宙船の中でひとり育児をおこなう男。

 

またまた長い年月が過ぎ、女の子はきれいな女性に成長する。
そして二人はついにブラックホールに近づいていた。
最期の時が訪れようとしていたのだ。

 

おそらく、意欲的な映画なのだろう。
しかしその狙いは判らずじまいだった。私の修行がまだ足りない?

 

「ザ・クロッシング Part Ⅰ & Ⅱ」(2014年、2015年)

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Part Ⅰ:2014年 中国 129分
Part Ⅱ:2015年 中国 126分
監督:ジョン・ウー
出演:チャン・ツィイー、 金城武、 ソン・ヘギョ、 ホァン・シャオミン、
    トン・ダーウェイ、 長澤まさみ

歴史の中で交差する三組の男女。 ★★★☆

 

ジョン・ウー監督といえばアクション映画の巨匠。
そのウー監督が撮った豪華スターの共演の大河ロマン。
前・後編の2部構成で、合わせれば4時間越えの作品。いったい、どんなや?

 

太平洋戦争の末期、日本が中国から撤退すると、中国国内では国共内戦が起こる。その時代に、歴史に翻弄された3組の男女を描いている。

国民党将校イーファン(ホァン・シャオミン)とその美しい若妻ユンフェン(ソン・ヘギョ)。
素朴な兵士ターチン(トン・ダーウェイ)と必死に故郷の幼なじみを捜す従軍看護師チェン(チャン・ツィイー)。
台湾人医学生ザークン(金城武)と日本人女学生(長澤まさみ)。

 

原題は「太平輪」。
これは1949年に衝突事故で1000人以上の死者を出した大型船の名前。
そうなのだ、これはジョン・ウーが撮った「中国版タイタニック」だったのだ。
パートⅠでは後にその太平輪に乗り合わせることになる3組の男女の物語が描かれる。

 

日本軍が敗れ中国から撤退すると、今度は国共内戦が激化する。
世情は不安定となり、蒋介石の率いる国民党は次第に劣勢になり、人々は戦火から逃れるために台湾へ移動し始める。

始めは3組の男女の物語が交互に描かれるので、はて、これは誰だっけ? この人はどういう状況になっていたのだっけ? と頭の中を整理しながら観ることになる。

 

将校のイーファンは妻ユンフェンを安全な台湾に疎開させ、自らは内戦の最前線へと向かう。
台湾人の医学生ザークンは、日本人の雅子と恋に落ちるが、彼女は日本に帰国してしまい、
台湾の家には雅子が弾いたピアノと、ザークンが描いた雅子の絵が残される。
出征した恋人を捜すため従軍看護師に志願したチェンは、身分証明書をつくるために、見知らぬ兵士ターチンと偽の家族写真を撮る。
しかし、チェンは台湾に行く船賃を稼ぐために街娼にまで身を落とす。

 

映画では北京語、台湾語、それに日本語が出てくる。
中国語と台湾語がまったく違うらしいことを初めて知った。そうなんだ。
それにしても、金城武はこの3つの言葉を使い分けている。語学が全く駄目な私からすれば、すごいとしか言いようがない。

 

ソン・ヘギョは数人しか知らない韓国女優さんの中の一人。
イ・ビョンホンと競演したかってのTVドラマ「オール・イン」でファンになった。
で、映画「私の頭の中の消しゴム」も観たのだった。清純な笑顔が可愛い。

 

チャン・ツイィーは薄幸の美女役がよく似合う。
「Lovers」や「「グランド・マスター」などの武侠を演じても、やはりどこかに孤独の影が漂う。
かっては、「初恋の来た道」で、神がかった可愛らしさだと驚嘆したものだった。

 

パートⅡが始まっても、まだ太平輪は出発しない。
船が出航するのは半分ぐらい経ってから。
要するにジョン・ウーは船の沈没を描くと言うよりも、それに乗り合わせた人々の交差する人生を描きたかったのだろう。
白い鳩は飛ばなかった。二丁拳銃の乱射もなかった。
代わりに、海のうえをカモメが飛んでいた(苦笑)。

 

クライマックスは太平輪の沈没場面。
しかし肝心の衝突場面などのセットはあまりにもチープではなかったのかい。
ジョン・ウーともあろう監督が、あのセットで良しと思ったのだろうか。
火薬爆破場面にはうるさいくせに(苦笑)。

 

やはりジョン・ウー監督は恋愛ものにはあまり向いていないのかもしれない。
何を描けば、どんな風に描けば、観客がキュッとなるのかが、もうひとつ判っていないのではないだろうか(と、上から目線 笑)。

 

しかし、戦火に翻弄されて交差する人々の人生ドラマは、見応えはあった。

 

「トレジャー・ムージン 天空城の秘宝」 (2018年)

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2018年 中国 110分
監督:フェイ・シン
出演:ツァイ・ハン、 グゥ・シュアン

ファンタジー・アドベンチャー。 ★★☆

 

荒唐無稽の冒険譚。
これでもかというほどに襲ってくる派手な怪獣たち。
間一髪でそれらを倒し、危機を切り開いていく主人公たち。
さあ、このめまぐるしさ、大仰さ、(馬鹿馬鹿しさ)についていけるか?

 

千年前にかけられた悪の女王の呪いを解くために、主人公たちが天空の城へ秘宝を取りに行く、というのがあらすじ。
ま、物語は映像を見せるための道具にすぎない。
物語には期待してはいけない類いの映画(苦笑)。

 

冒険にでかける主人公たちの武器は剣に弓矢にスリングショット。
あれ、これって現代劇ではなかったのか・・・?
それとも、敵怪獣の雰囲気に合わせた?

 

序盤が終わって、冒険の旅が始まってからの映像はすごい。
深い渓谷にかかる石の橋。崩れかけそうな段々が途切れ途切れにつけられた断崖絶壁。
蝶が群れ飛ぶ桃源郷もあらわれる。
映像的には「ホビット」シリーズ、それに古くは「インディ・ジョーンズ」シリーズ、そんなものを想い起こさせる。

 

そして襲ってくる敵怪獣の数々。
まあ、出てくるわ、出てくるわ。
池の中には人喰い魚がうようよといるし、森には大トカゲ。
大ザリガニもいるし、大蜘蛛も次から次へと襲ってくるぞ。
こんなのから、どうやって逃げたらいいんだ?

 

惹き文句は「酸欠ウルトラ・アクション・ムーヴィー」。
う~む、確かに頑張っている。
しかし、襲って来る怪獣たちは姿は違えど、主人公たちとのやりとりは同じ様なことの繰り返し。
こんなことを言っては顰蹙ものだが、少し飽きてくる(汗)。

 

やっとたどりついた天空の城で待ち構えていた究極のラスボスは大蛇。
ここでも大苦戦の主人公たち。
おや、そんな伏線回収でラスボスをやっつけるのか。なるほどね。

 

ヒロイン役のグゥ・シュンアンは、これぞアジアン・クール・ビューティという感じ。
難しいことはいわずに、(ツッコミも余りしないで)、気楽に愉しみましょう。

 

「メランコリック」 (2018年)

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2018年 日本 114分
監督:田中征彌

裏のお仕事映画。 ★★★☆

 

説明記事によれば、この映画は「撮影期間10日間、予算300万円、出演は無名俳優たち」とのこと。
しかし、とても面白い作品だった。
映画の面白さは、かけたお金ではないんだということを再確認。
東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門というので監督賞を受賞していた。

 

主人公は、東大を卒業したのにニート暮らしをしている和彦。
どうも他人との交流が不得手のようで、小声でぼそぼそとしゃべる暗い雰囲気の青年。
そんな彼が偶然に行った銭湯で高校の同級生・百合と再会する。
彼女は何故か和彦に好意的で、ごくごく自然にアプローチしてくる。

で、なんとなくその銭湯でアルバイトをすることになる和彦。


一緒にアルバイトをすることになったのが金髪のチャラい感じの松本くん。
根は悪い奴ではなさそうなのだが、どこまでも軽そうな奴。
対人関係に無頓着な和彦は、そんなことにも余り気を使わない。松本くんも人なつこいし。
根暗の和彦とチャラ男の松本くん。絶妙のコンビ。

 

ところが実は、その銭湯は深夜に“人を殺す場所”、”死体を処理する場所”として使われていたのだ。
えっ!? まさかそんなことを! と思うところのだが・・・。
和彦も乞われるままに、血で汚れた浴場を掃除し、大きな風呂釜での焼却処理を手伝うようになる。
これ、めちゃくちゃ異常でエグいことなのに、和彦は淡々とその事態を受け入れている。

 

そうなのだ、とてつもなくエグいことが起きているのに、それとは裏腹に軽い感じで物語が進んでいく。
この奇妙なアンバランスな感じがとても面白い。
疲れたろうから入っていくか、と銭湯のおやじの東に言われて、死体を処理し終わったばかりの浴場で気持ちよさそうに湯に浸かる和彦と松本くん。
おいおい、それ、並の神経じゃないだろう(汗)。

 

風呂場での死体処理というと思い出すのは、園子温監督のあの「冷たい熱帯魚」。
しかしこちらは銭湯なので、ずっと広々としている。
遺体は大きな風呂釜で燃やしてしまっているし、風呂場も大きくて広いと、何かと便利なのだ。
いや、そういうことではないのだが(汗)。

 

和彦のキャラが立っている。
大真面目なのだが、どこかネジがずれているのだ。
銭湯のオヤジの東が、死体処理を松本くんひとりに任すと、なんだか仲間はずれにされたようでムッとしたりする。
自分も仕事が出来るのだからもっと任せて欲しい(仕事の内容が問題ではあるのだが)、というあたりが可笑しい。

 

そして、浴場の後始末で違法な臨時収入をもらうと、単純に奇妙に浮かれたりする。
東さんと松本くんがこそこそとなにごとかの相談をしていると、また仲間外れにされたと思って拗ねてみたりもする。
う~ん、事態の異常さと、まともすぎる小心人間のギャップが可笑しいのだ。

 

さて、殺し業務を請け負っていた男がヤクザ事務所を襲うときに、手伝いに松本くんを連れて行く。
はたして松本くん。大丈夫なのかと思っていたら、彼は驚くほどにやるのである。
すっかり松本くんを見直してしまったぞ。

 

実は松本くんはプロの殺し屋だったのだ。
そうか、ただのチャラ男ではなかったんだ。松本くんは頼りになる奴だったのだ。

 

とにかく和彦や松本くんは、殺人を引きうけたり、その死体処理をしたりと、やっていることは極悪非道。
それなのに、映画にはどこか妙なのんびり感があって、すっかり主人公たちに感情移入してしまう。
恋人役の百合もリアル感があって好かった。彼女の存在が物語に彩りを添えていた。

 

どんどんと深みに引きずりこまれていく和彦と松本くん。
どんな風に物語が着地するのかと思っていたら、まさかのほっこりだった。
そこにかぶる主人公の独白は、「人生には何度か、一生これが続けばいいのにと思える瞬間が訪れる。その瞬間の為だけに生きている。それで充分」

 

なるほどなあ。映画を見終わった私も同じ気分になっているか・・・。
それにしても、松本くんやヤクザの情婦だったアンジェラちゃんのこれからのことが気になるなあ。

 

インディーズ映画で大化けをしたといえば「カメラを止めるな」が思い浮かぶ。
個人的には、あれよりも今作の方が出来がよかったという評価です。

 

 

「弱虫ペダル」 (2020年)

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2020年 日本 113分
監督:三木康一郎
出演:永瀬廉、 伊藤健太郎、 橋本環奈

高校生の自転車ロードレース。 ★★★

 

大学とか高校の運動クラブものは基本的に好きである。
ちょっと思い浮かべるだけで、「風が強く吹いている」、「ピンポン」、「しこ踏んじゃった」、「がんばっていきまっしょい」・・・。
運動クラブではないが、広瀬すずが魅力的だった「ちはやふる」もこの系統だろう。

 

さて。本作の主人公は総北高校の新入生・小野田坂道(永瀬廉)。
彼は根っからの(孤独な)オタク少年。毎週、自宅から秋葉原までの往復90km余りをママチャリで通い続けていた。
それも「姫~、姫~」と訳のわからんオタク歌を口ずさみながら。

 

そんな彼は、入学早々にいきなり今泉くんに自転車レースを挑まれてしまう。
今泉くんは中学時代からの自転車競技少年。
いち早く小野田の天性の素質を見抜いたのだ。
この、お前なかなかやるじゃねえか、只者じゃねえな、的な仲良くなり方はスポ根ものには欠かせませんな。
そこに関西弁のスピード自転車少年の鳴子くんも加わって、友だちができて嬉しいなあ、の展開となる。

 

しかし、私は自転車に疎い。
途中で出てくるギヤ装備とか、立ち漕ぎのメリット/デメリットとか、そのあたりの解説めいたものを入れてくれれば、面白さが倍増したのではないだろうか。
ケイデンスを30あげるって、なに?と思いながら観ていたのだが、どうもこれはペダルの回転数のことのようだった。

 

この映画の自転車競技場面も一切CGはなく、実際の撮影だけとのこと。
それはすごい。
あの上り坂をあれだけのスピードで漕ぐなんて、ものすごい特訓をしたのだろう。

 

それにしても、レースで必死で漕いでいるときに、実際にもあんなに声を出すもの?
力がロスするような気がするのだが・・・。
でもあんな風にしないと観ている人に必死さが伝わりにくい? (原作はコミックだし・・・汗)

 

以前の駅伝を扱った「奈緒子」という映画では、必死になって走る場面になると大きく首を振って肩を揺らしていた。
馬鹿な!実際にはあんなことをすればタイムをロスするだけじゃないか、と思いながら観ていた(ちなみに、私は年に数回はフルマラソンを走るジョガーです)。
あの映画で走るフォームができていたのは、敵役でまだ無名だった綾野剛だけだった。

 

「風が強く吹いている」は箱根駅伝をめざす大学生の物語だった。
三浦しおんの原作も好かったが、映画も好かった。
出演者の走るフォームがみんな美しく、すごい走り込みをしたのだろうなと思った。

 

この映画でのレース場面は3回あったが、どれも迫力は満点だった。
友達がいなくてひとりぼっちだった坂道が、仲間ができたことで必死に自分を鼓舞して頑張る姿はよかった。

 

そして今泉くんと鳴子くんも、坂道と出会ったことによって変わる。
個人主義的な性格だった鳴子くんがチームのためにと頑張るようになり、勝負どころに弱かった今泉くんも踏ん張れるようになる。
これは王道の展開だが、清々しくて好かった。

 

そしてインターハイ出場資格をかけた県大会がハイライトとなる。
残念だったのは、競技のルールがうまく伝わらなかったこと。
6人のチームの内の誰かがトップでゴールすれば、そのチームが優勝となる、ということぐらいしか判らなかった。

 

だからレースの作戦が伝わりにくい。
一人だけ先行させるのは何故? 逃げ切れる可能性ってあるものなの?
ローテーションして風よけを分担するという理屈はよく判る。
すると、鳴子くん一人だけに風よけをさせなければ、チーム全体としてはもっと早く走れたのではないか?
(結局、鳴子くんも最後まで皆と一緒に走っていたし・・・)

 

そんなことを差し引いても、映画は充分に楽しめた。
原作では宿敵とかもっと細かい設定があったのだろう。
今度は原作コミックを読んでみようか・・・。

 

 

 

「糸」 (2020年)

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2020年 日本 130分
監督:瀬々敬久
出演:菅田将暉、 小松菜奈、 榮倉菜奈、 斎藤工

18年間の恋物語。 ★★☆

 

中島みゆきの曲「糸」に着想を得て物語が作られたとのこと。
あの歌からどんな物語が生まれた?

 

平成元年生まれの高橋漣と園田葵は、13歳の時の花火大会で初めて出会う。
初めての恋が始まり、この映画は漣と葵のそれからの18年間に及ぶ物語を描いている。
少年、少女時代の二人を演じた俳優さんはそれぞれに好かった。

 

しかしその頃の葵は義父の暴力に怯える悲惨な毎日を送っていたのだった。
漣は葵を助けようとして一緒に家出をするのだが、すぐに発見されて二人は引き離されてしまう。
ここから二人の人生は時折り交差しながらまた離れて、年月が流れていく。

 

恋愛ものの「糸」というと、二人を結びつける”赤い糸”のような比喩でよく使われる。
しかしこの映画での「糸」はそんなものではなかった。
中島みゆきの歌にあるように、二人の人生ドラマが縦糸と横糸で織りなされていたのだった。

 

葵(小松菜奈)との思い出が断ち切れなかった漣(菅田将暉)は、故郷の北海道で暮らし続ける。
8年後の共通の友人の結婚式で漣が再会した葵は、東京で水商売で生計を立てたり、若い資産家(斎藤工)の恋人になっていたりした。

 

言ってみれば、男は(うじうじと)いつまでも故郷で待ち続け、女は生きるために東京や沖縄、シンガポールとどんどんと動き廻る。
これ、一昔前の恋愛ものとは男女のあり方が逆転している。面白い。

 

たとえば一組の男女の長年にわたる愛憎を描いたものに、吉田喜重監督の名作「秋津温泉」があった。
あの映画では、女はいつまでも温泉宿に留まり続け、人生に疲れたときにだけやってくる男を待ち続けていた。
昔の歌謡曲ではないが、男はでかけていく船、女はその帰りを待つ港。そんなイメージだった。この映画の男女は真逆。

 

小松菜奈は「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」で観て、その透明感のある可憐さに惹かれた。
今作でも文句なく可愛かった。
ヒロインが小松菜奈でなかったら私の評価はもう少し低かったかも、と言っては監督に失礼か(汗)。

 

さて、葵が遠くを飛びまわっていると感じた漣は、同じチーズ工場で働いていた香(榮倉菜奈)と結婚する。
そして子どもにも恵まれるのだが、香は・・・。

榮倉菜奈は非常に熱演。漣が好きでたまらない一途さもよく出ていた(ドングリをぶつける仕草はよかったなあ。)

 

観ている者は、漣と葵がそれぞれの伴侶を見つけてしまったりして、これからどうなるのだ?と思っている。
そうなのだ、離れてしまった漣と葵の物語は、大きく波打つ運命でまた交差しようとする。
二人を囲む人たちは(葵の母親と義父を除いて)みんな好い人だったのだ。

 

それにしても漣の家族は一度も出て来なかったな。
葵の家族も、香の家族もちゃんと出てきたのに、どうして?
なにか不自然な気がしたのは私だけ?

 

それはさておき。
最後近くの函館港の場面はさすがにやり過ぎ感もあったが、期待していたとおりの結末となって、よかった、よかった。

(物語から「弥生、三月 君を愛した30年」を思い浮かべてしまったのも、私だけ?)

香に対する漣の真の思いはどうだったんだ?などと考え出すと、引っかかる部分もあるのだが、あまり深くは考えずに観ましょう。

 

「コンフィデンスマンJP プリンセス編」 (2020年)

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2020年 日本 124分
監督:田中亮
出演:長澤まさみ、 東出昌大、 小日向文世、 柴田恭兵

詐欺師シリーズ映画版第2弾。 ★★★☆

 

前作の「ロマンス編」も軽~い気分で愉しむことができた。
TVドラマ版は観ていなかったが、もう仲間も頭に入ったし、今作も観なくては。

 

今回はシンガポールの大富豪の遺産を巡る大騒動。
ダー子(長澤まさみ)は軽いノリで、いつものボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)の3人組で、さあ、やるわよ。
遺産相続をしようとしているのは3人の実子だが、偽の隠し子を仕立て上げるわよ。

 

というのも・・・。
亡くなった大富豪(北大路欣也)から絶大の信頼を得ていた執事のトニー(柴田恭兵)が読み上げた遺言というのは、すべての財産を4番目の隠し子キシェルに譲る、というものだったのだ。

 

3人の欲深&高慢&陰険な子どもたちは大慌て。
どこの馬の骨とも判らない奴にこの莫大な事業と遺産を渡してなるものか。
もちろん、世界中から私がミシェルよと名乗り出るものが後を絶たない。
ダー子たちはどうやって隠し子を仕立てる?

 

隠し子のDNA鑑定も、なるほど、そうやってごまかすのか。
名乗り出てきた隠し子の母親の逸話も、なるほど、そうやってでっち上げたのか。
すべてが準備周到だな。

 

と思ったら、本当の隠し子の母親からの手紙があらわれたぞ。
おいおい、これはどう対処するんだ?

 

チョイ脇役にも豪華な顔ぶれが出てくる。
シンガポール舞台なのでGACKTが出ているし、マレーシアなのでデヴィ夫人も顔を出していた。

 

例のヤクザの赤星(江口洋介)もちょっかいを出しにあらわれる。
こういった常連も顔を出してくれないと寂しい。
そういうことからも、プレイボーイ役の三浦春馬は今作で最後かと思うと、残念。

 

シンガポール舞台のセレブ感いっぱいの騙し合いの物語。
豪華で、お洒落で、言ってみれば夢舞台のような物語。
それこそ、映画館でなければワイングラス片手にソファでゆっくりと楽しみたい映画。

 

終盤になって、気位が高くて意地悪な女だと思っていた長女も、実は好い人だったし、長男、次男もそれぞれに悩みを抱えていた。
それらの悩みから解放されて、みんながハッピー、ハッピー。

 

そんなに都合よくいくかい? なんて思ってはいけません。
エンタメ映画ですから、単純にダー子に騙されて、映画を楽しみました。

 

それにしても、大富豪が飲み屋で耳にしたいい加減な話を実行するか? 
エンタメ映画ですから・・・それでいい?(苦笑)