1938年 イギリス 98分
監督:アルフレッド・ヒッチコック
老婦人が消えた。 ★★☆
確かにいたはずの人がいなくなってしまうという設定の映画の代表作と言えば、これ。
原題を直訳すると、バニー・レークではないが「夫人は行方不明」。
邦題は内容とはちょっとずれているような気もするが、格好いいのは確か。よく付けたものだ。
登場人物たちが乗り込む肝心のバルカン超特急が発車するまでが結構長かった。
駅に隣接した(?)ホテルの前夜の様子が描かれるのだが、ここで主要人物の人となりが判るようになっている。
狂言回しの役の人とか、はじめは嫌みな奴に思わせておいて後ではヒロインを助ける役の人とか。
ヒロインはアメリカ人のアイリス。この旅行から帰ったら結婚する予定となっている。
でも、その結婚にはなにかもう一つ気乗りはしていない様子なのだが。
彼女が知り合うのがフロイという老婦人。
家庭教師をしているという人の好いおしゃべりなおばさんである。
ということで、この映画ではフロイ老嬢は実在していることが始めから観客にも示されている。
そしてアイリスと同じコンパーメントにいたフロイは、アイリスがうたた寝から覚めるといなくなっていた。
あら、フロイさんはどこ?
どなたか、フロイさんがどこに行ったか知りません?
ところが、同じコンパーメントにいた客たちも、食堂車でフロイ嬢を見たはずの客たちも、皆、そんな人はいなかったと言うのだ。
これはどうしたことだ?
前夜のホテルでは嫌味な奴だったギルバートが、すっかりアイリスの味方となってくれる。
おお、おまえは好い奴だったのだな。
クリケットの時間ばかりを気にしているイギリス紳士の二人ずれがユーモア担当で、好いアクセントになっていた。
ほかにも巡業中のマジシャンとか、重病人を治療する医師とか、不倫旅行中のカップルとか、列車の乗客も多彩。
そして、行方不明になるまえに車窓にフロイが書いた指文字、風に飛んできたフロイの愛飲のハーブティのラベル。
こういった小ネタを巧みに使っていた。
(以下、ネタバレ)
映画の背景には第二次世界大戦前夜の緊迫した政治情勢がある。
実はフロイ老嬢は暗号をロンドンへ届けるスパイだったのだ。
あの人の良さそうなお婆さんがねえ。
前夜に何者かに殺されたギター弾きも、何かの暗号をフロイに送っていたのだった。なるほどね。
サスペンスものだが、ユーモアあり、銃撃戦のアクション場面ありで、よい娯楽作となっている。
最後、ギルバートが暗号のメロディを忘れてしまって、おいおい、と思っていたのだが、そうきたか。好かった、好かった。