あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「由宇子の天秤」 (2020年) 社会の正義、個人の正義

2020年 日本 152分
監督:春本雄二郎
出演:瀧内公美、 河合優実、 光石研

重厚な心理ドラマ。 ★★★☆

 

情報化社会での正義とは何なのか、マスコミは何を伝えるべきなのか、そんな問題に向き合った作品。
それをひとりの人間が背負うとき、その人にとっての正義が問われる。

 

主人公はドキュメンタリー番組のディレクターである由宇子(瀧内公美)。
ディレクターといってもTV局の外注をしている状態なのだが、3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件の真相を突き止めることに情熱を燃やしている。
それを明らかにして公表することが正義なのだとの信念に突き動かされている。

 

そのために関係者に鋭いインタビューをする由宇子。

あなたのお話がこのような悲劇の再発を防ぐことにつながるのです。ぜひお話を聞かせて下さい。
そんな彼女は、自宅では父(光石研)が経営する学習塾を手伝ったりもしている。屈託のない高校生たちに勉強を教えたりしている。

 

瀧内公美は「火口のふたり」で注目した女優さん。
内側に秘めた闘志のようなものを目力で表現できる女優さんだと思っている。
この映画では、正義感と打算に走る狡猾感を上手く出していた。

 

そうなのだ、由宇子は父が犯していたある罪を知ってしまう。
彼女の正義感からすれば、父のおこなった行為は決して許されるものではない。
彼女は父を糾弾する。ひたすら彼女にわび続ける父。
そのうえで彼女は、父の行為を世間から隠蔽しようとしてしまうのだ。

 

彼女の中でダブル・スタンダードが生じてしまっている。
そのことを責めるのはたやすいだろう。お前、立ち位置の軸がぶれてるじゃないか、と。
しかし、当事者になった場合を我が身に重ねて考えれば、由宇子の狡さも判ってしまう。

 

この映画の深いところは、由宇子が自分の狡さを自覚したうえで、なおそれを自分の中で正当化しようとしてしまっているところ。
自分の狡さを、なんとかして自分にとっては正義だと納得させようとしているところ。

 

(以下、最後の場面を述べています)

 

最後、由宇子はそのことである人物に殴られ、首を絞められ続ける。
静止したカメラがじっと倒れている由宇子を映しつづける。
そしてしばらくして、激しく咳き込みながら起き上がる由宇子を捉えて映画は終わっていく。

 

当初はいささか奇妙に思えた映画タイトルだったが、見終わってみればなかなかに考えたものだと思えた。
そう、由宇子は二つの正義感の間で揺れ動く。天秤はどちらに傾く?

 

派手さはありませんが、じっくりと浸みてくる映画でした。

お勧めの作品です。

 

 

「夏への扉」 (2021年) 30年前に死んだ彼女を助けなくては・・・

2021年 日本 118分
監督:三木孝浩
出演:山崎賢人、 清原果耶、 藤木直人

タイムマシンもの。 ★★☆

 

原作はSF小説の金字塔と言われるR.A.ハインラインの同名小説。
昔読んでいて大まかな設定は覚えていた。
さあ、あの名作をどのように映画化したのだろうか?

 

舞台はもちろん日本に変更している。
幼い頃に両親を亡くした宗一郎(山﨑賢人)は、亡き父の親友・松下に引き取られ、ロボット開発の天才科学者として成長していく。
しかし、その松下夫妻も事故死してしまった。
それでも宗一郎は、愛猫のピート、そして松下の娘で高校生の璃子(清原果耶)と落ち着いた研究生活をおくっていた。

 

ところが、宗一郎の研究成果は信頼していた共同経営者と婚約者に奪われてしまう。
おまけにその騒動に巻き込まれて璃子も事故死してしまう。
すべてに絶望した宗一郎は、人体を冷凍保存するコールドスリープで30年間の眠りに入ってしまう。
30年後に目ざめた宗一郎は、果たして何を見るのか。そして自分と璃子を破滅させた悪役2人に復讐することはできるのか・・・。

 

というところが大ざっぱなあらすじ。
あれ? 冷凍睡眠で30年後に? これでは単にタイムスリップしただけで、タイムマシンものじゃないじゃん・・・。
いやいや、名作と言われるのにはそれだけの仕掛けがあるのだよ。

 

物語の始めの舞台は1995年の東京。
ブラウン管テレビやカセット・ウォークマンの時代なのだが、ロボット工学などのある分野では現実とは微妙に違うところが面白い。
そして宗一郎が目ざめた2025年では、AIを搭載したヒューマノイドが社会のあちらこちらで活躍している。自動運転の無人タクシーも走っているぞ。
3年後にはこんな風になる?

 

この映画の眼目は、30年後に目ざめた主人公が、今度はタイムマシンで30年前に戻るというところ。
そしてこの映画での世界は、パラレルワールドではなくて、過去を修正すれば未来も変わるということになっている。
要するに、過去に戻って璃子の死を防げば、璃子が生きている世界と死んだ世界があるのではなくて、璃子が生きている世界に修正されるというもの。
なるほど。

 

藤木直人が、宗一郎の世話をするヒューマノイドを演じていた。
その意識的にされる不自然な動作、話し方がそれらしく見せていた。
感情を持たない存在なのだが、映画の終わり近くで一度だけ、にやっと笑った顔を見せる。好かったよ。

 

いくつかの不満もある。
過去を変えることによって今(過去から30年後、ね)が変わっているわけだ。
だから、今の住人たちは宗一郎が過去に戻って過去を変えてくれなければ今の自分はいないことになるのだ。
宗一郎に再会して感激する(今の)会社社長やら、タイムマシンの発明科学者、すべてを仕切ってくれた弁護士など、うまく伏線を回収していた。

 

しかし、それらが後出しじゃんけん風の感じがなきにしもあらず、ではあった。
もっと前半に伏線を散らばらせておけなかったものだろうか。

 

そして肩すかしだったのは、宗一郎を裏切った悪役の二人、どちらも勝手に自滅してしまっているではないか、というところ。
まったく復讐劇はおこなわれていないのだ。
まあ、原作でも主人公は明るい善人で、復讐などというどろどろしたものとは無縁の人物像だったのだが・・・。

 

退屈することはなかった。しかし、しかし、である。
この映画制作の情報を聞いたときから、今さらこの名作を映画化するの?という不安はあったのだ。

これが、クリストファー・ノーラン監督が映画化した、ということであればどうだったろう、とつい思ってしまうのでした。

 

「空白」 (2021年) 心の空白は怒りで満たされる?

2021年 日本 107分
監督:吉田恵輔
出演:古田新太、 松坂桃李、 寺島信子

一つの事件が人の心を黒く塗りつぶす。 ★★★☆

 

老婆心ながら、これからこの映画を観ようとされている方にご注意。
この映画はかなり気持ちがしっかりしているときに観てください。
気持ちが沈んでいるとき、後ろ向きになっているときは、決して観ないでください。
それほどこの映画は重く辛い気持ちをぶつけてきます。

 

スーパー店長の青柳(松坂桃李)は、万引しようとしていた女子中学生を見つける。
彼女は店外に逃げ出し、青柳に追いかけられている内に車に轢かれて死んでしまう。
えっ、どうしてこんなことになるんだ! 俺が追いかけたからか? こんなことになってしまって、これからどうすればいいんだ?

 

この映画の要は、死んでしまった女子中学生の父親・充(古田新太)。
離婚をして一人で娘を育てていた充だったが、居丈高で短気な彼は娘にも無関心で怒鳴り散らしてばかりいたのだった。
その反動なのか、娘の死を受け止めきれない充は、死んだ原因となった青柳に度を超えた怒りをぶつけてくる。

 

モンスター・クレーマーである。
演じているのが古田新太なので、粗野で暴力的な雰囲気を全身であらわしている。
これは怖ろしい。こんな相手に絡まれたら、誰だって萎縮してしまうだろう。
そんな迫力で、来る日も来る日も青柳は責め立てられるのだ。
お前のせいで娘は死んだんだ。どうするつもりだっ!
必死に謝っても充の怒りは収まらない。そんなことで娘が生き返るとでも思ってんのかっ!

 

父から受け継いだスーパーを一生懸命切り盛りしていた青柳。
少し気の弱そうな、善良な青年を、松坂桃李が等身大に思える演技で好演。
これが「孤狼の血2」での暴力刑事と同じ人かと驚いてしまう。
つくづく役者ってすごいものだと思う。

 

充の怒りは娘が通っていた学校にも向けられる。
そして、娘を轢いてしまった小型車を運転していた女性が謝罪に訪れても、充はそれを受け入れようとはしない。
怒りをぶつけることで、娘に対して自分が何もしてこなかったことの後悔をまぎらわそうとしているようだ。
だから、自分の後悔が収まらない限り、青柳などへの怒りが収まることもないわけだ。

 

こんなモンスター化した相手に向き合わざるを得なくなったらどうすればいい?
我が身に引き換えてみると、本当に困惑する。怖ろしい。
青柳ではないが、それこそ自殺でもしてしまうほかない、と追い詰められてしまうのではないだろうか。
このあと、どうなる?

 

(以下、結末へのネタバレ)

 

娘を轢いてしまった女性は、充への謝罪が受け入れられないことを苦にして、自ら命を絶ってしまう。
充は、今度は自分が人が死ぬ原因を作ってしまったわけだ。立場が逆転する。
充は喪服を着てその女性の通夜に訪れる。
そこで充は女性の母親から謝罪される。えっ?

 

母親が言う、娘の罪は自分が背負って行く。自殺という道を選んで逃げた弱い娘を許してください。
この言葉を聞いたときから充の気持ちが少しずつ変化していったようだった。
娘の残した絵具で下手な絵を描いてみる充。

 

そしてラスト、スーパーを閉店して交通整理仕事をしていた青柳と偶然に出会う。
今もなお謝りつづける青柳に充は答える、
お互いに失うものがあった。そっちは何度も謝ってくれたが、自分は一度も謝ってない、でも
今はまだ無理なんだ。もう少し時間が必要なんだ。

 

これは、それまでの充の姿が激しかっただけに、よりいっそう印象的な好い場面だった。
充の心に出来た空白を埋めたものは・・・。

 

古田新太あっての映画だった。
彼以外にこの役に合う役者はは思いつかないな。

 

「騙し絵の牙」 (2021年) 売れる雑誌はこうやって作れ!

2021年 日本 113分
監督:吉田大八
出演:大泉洋、 松岡茉優

出版会社の裏事情。 ★★

 

予告編がすごく面白そうだったので少なからず期待をしていた。
そうしたら、・・・あれ? こんなもの?
原作は塩田武士の同名小説(未読)。

 

ネット社会が広がるにつれて、紙媒体の出版物業界はいずれも苦境に立たされている。
新聞社しかり、週刊誌や雑誌の出版社しかり、である。
この映画の舞台も、そんな不況の波にもまれる大手出版社。
おまけにこの会社は創業一族の社長が急逝して、その後継者をめぐっての権力争いがわき起こっている。
社員幹部たちは、会社はもちろん自分の存亡を賭けたあの手、この手で、そりゃもう大変。

 

主人公は、そんな会社の雑誌「トリニティ」の編集長に抜擢された速水(大泉洋)。
雑誌は業績が上がらなければ廃刊されそうな情勢なのだ。
そこで、人当たりが好い(ように見える)彼は、ポジティブ思考(のように見える)で部下を鼓舞して雑誌の立て直しをはかる。
一見、善良そうな早見なのだが、その実、彼は目的のためには平気で人を騙すような人物だったのだ。

 

この映画は大泉洋の飄々とした演技で魅せるものとなっている。
彼の真面目なのだか、ふざけているのか、真剣なのか、いい加減なのか、捉えどころのない雰囲気が上手くはまっている。
相手をおだて、時に巧みに操って(騙して、とも言う)計画を実行しようとする。
なんでも、原作小説そのものが大泉洋に当て書きをしたもの、とのことだった。

 

そんな彼を引き立てていたのが、出版に純粋な情熱をかたむける編集員の高野(松岡茉優)。
彼女は、とにかく良い小説を発掘したい、良い作家を育てたい、というひたむきさで仕事をしていく。
彼女の実家が、今は本当に少なくなってしまった町の本屋さん。

 

出版社の内幕も描かれていて、なるほど、そうなのか、と思うことも少なくなかった。
たとえば、小説を中心とした月刊誌と、スクープ記事を中心とした週刊誌との勢力争い。
売れっ子作家と出版社の持ちつ持たれつの関係、などなど。
(以前に観た映画「ぱくもん。」では漫画家と出版社の関係が描かれていて、あれも興味津々の内幕ものだった)

 

さて、この映画の予告編は実に好くできていた。
印象的だった場面は、高野が「そんなに人を騙して面白いですか!」と問い詰めて、速見が「ああ、面白いね!」とうそぶくところだった。
しかし、本編では二人がやり合うそんな場面はなかったのである。
やりとりが面白かった二人の台詞は、まったく別の場面で個々に言われていたのである。なんだ・・。

 

そして速見のこの映画での一番の騙しが、結局は出版社の権力争いのためのものだった、というオチはちょっと肩すかしだった。

 

ということで、吉田大八監督は好きな監督だったのだが、本作は今ひとつだった。
大泉洋のキャラクターに頼りすぎた? といっては監督に失礼か。

 

「ミラーを拭く男」 (2003年) 無口な偏屈男は何を考えている?

2003年 日本 117分
監督:梶田征則
出演:緒形拳、 栗原小巻、 

これ、好い話? ★★☆

 

大まかな物語としては、カーブミラーのある角で交通事故を起こしてしまった男・皆川(緒形拳)が全国のカーブミラーを拭いてまわろうとする、というもの。
主人公の行為としてはただそれだけ。
映画はロード・ムービーのようにその姿を追っていく。
そして、そんな行為を淡々と続ける皆川が旅先で出会う人たちとの交流が描かれる。

 

皆川の起こした事故は少女にかすり傷をつけただけのもの。
しかしその祖父がクレイマーとなって頻繁に家に怒鳴り込んでくる。
その対応を妻(栗原小巻)に押しつけて何もしない皆川に、息子や娘はあきれ果てている。
そんなある日に、突然皆川は何も言わずに家を出てカーブミラー拭きの旅に出てしまうのだ。

 

彼の行動が何に根ざしているものか、よく判らない。
彼は何も語らないのだ。
感情を内に殺してしまった人物像のために、何を考えているのか、外からはうかがい知れないのだ。

 

緒形拳の木訥とした演技はさすがのもの。
彼の主演映画ではなんといっても「長い散歩」がよかった。
やはり木訥とした人物像だったが、優しさが自然ににじみ出てくるような演技だった。

 

さて。
何も語らずに黙々と一つのことを続けている人物に、周りは勝手な意味づけをする。
TVをはじめとするマスコミはその典型だが、津川雅彦演じる初老の男もそうだった。
貴方のしていることは定年退職した老人たちに生きがいを与えるものですよ、これはみんなに広めるべきですよ、とキャンペーンまがいのことをはじめてしまう。
そしてそれに乗る人がどんどんと増えるのである。

 

映画はそれらの人たちをちょっと揶揄しているようなところもあった。
このことで思い出したのはトム・ハンクスの「フォレスト・ガンプ」だった。
主人公がただ全国を走り続けていることを知ったマスコミが騒ぎ出し、主人公を追って一緒に走る人がどんどん増えてくる、という展開だった。

 

あの映画ではトム・ハンクスは、ある日、ぱたっと走ることを止めてしまう。
すると人々はすぐに忘れていく。
本作では、マスコミの騒ぎをよそに、皆川は一人でミラー拭きを黙々と続けている。
そして、そこに奥さんが自転車に乗って現れるのだ。

 

繰り返しになるが、まったく話をしようとしない皆川が何を考えているのか、周りの人には分からない。
勝手に推測して決めつけるしかない。
それは映画を観ている者も同じ。皆川が何を考えているのか、掴みようがない。

 

ただ忌憚なくいわせてもらえば、皆川の行動は愚かな自己中心的なものにしか思えなかった。
これ、好い話だったの?

 

「レインディア・ゲーム」 (2000年) ああ、セロンお姉さま・・・

2000年 アメリカ 104分
監督:ジョン・フランケンハイマー
出演:ベン・アフレック、 シャーリーズ・セロン、 ゲイリー・シニーズ

カジノ強盗サスペンス。 ★★

 

監督はジョン・フランケンハイマー。そして俳優陣はベン・アフレックシャーリーズ・セロン、それにゲイリー・シニーズ
こんな豪華な顔ぶれの作品を見逃していたのか。これは観なくてはなるまいて。
ということで、期待して鑑賞したのだが、あれ?こんなもん?

 

自動車泥棒の罪で刑務所に入っていたルーディ(ベン・アフレック)は、同房のニックからまだ会ったこともない文通相手アシュリー(シャーリーズ・セロン)のことを聞かされていた。
しかしニックは出所直前に喧嘩の巻き添えを食って死んでしまった。
出所したルーディは美しいアシュリーを見そめて、ニックになりすましてしまう。
やあ、初めまして。僕が文通していたニックだよ。

 

というのが発端。
そりゃシャーリーズ・セロンを見れば彼女とお近づきになりたいとは男なら誰でも思うだろう。
しかし、しかしだよ、そんな美女が会ったこともない受刑者と文通する?
ちょっとおかしいぞ、何か裏があるんじゃないか、と少しは疑えよ。

 

案の定、ルーディがアシュリーとよろしくやっていると、突然アシュリーの兄ガブリエル(ゲーリーシニーズ)があらわれる。
これがヤバい雰囲気丸出しの悪い奴。
ほらね、ただじゃ済まなかったでしょ。
でもアシュリーはルーディをかばってくれるのだよ。やはり彼女はいい人なんだ。

 

このガブリエル、演じているのがゲイリー・シニーズだから笑い顔が不気味で、もうたまらんなあ。
実はガブリエルは、死んだニックが勤めていたカジノを襲撃する計画を立てていたのだ。
おい、ニックよ、カジノの内部はどうなっているんだ? どうやれば金庫室に入れるんだ?
そんなことは何も知らないルーディ、でも、嘘がばれれば殺されてしまいそう。
なんとかニックになりすますしかないなあ。

 

ということで、好きになってしまったアシュリーの手前もあり、嘘の綱渡りをするルーディ。
ついにクリスマスの夜に、サンタクロースに扮した5人組はカジノに押し入る。
上手くいくのか?

 

(以下、ネタバレ)

 

実はアシュリーとガブリエルは兄妹なんかではなかったのだ。
二人は恋人同士で、カジノの情報を知っているニックを誑かそうとしていたのだった。
ほらね、裏があったでしょ。

 

といったようなどんでん返しがあったのだが、どうもとってつけたよう。
物語全体も薄い。せっかくの豪華出演陣が活かされていない(シャーリーズ・セロンなんて体当たり演技までしているのに 汗!!!)
フランケンハイマー監督の遺作だが、何とも残念な作品だった。

 

余談だが、シャーリーズ・セロンは、自分が出た映画の中でこれが一番ひどいと話していたとか。
それは判っていたのだけれどもフランケンハイマー監督が大好きだったから出演したの、とも。

そうだったのか。それにしても・・・。

 

「トランス・フューチャー」 (2020年) 見事に伏線を回収したなあ!

2020年 ブラジル 99分
監督:ブルーノ・ビニ

タイム・スリップもの。 ★★★☆

 

時空を超える物語は好きである。
で、タイム・スリップという惹き文句を見るとつい手が出てしまう。
しかし先日観た「コンティニュー」はひどい代物だった。
さて今回はブラジルの映画だが、どうだろうか?

 

冒頭、ビルの屋上でダニエルは何者かに襲われ、その男は「今度はもっと急げ」と言い残して屋上から飛び降りてしまう。
傍らには死んだ恋人マリアが横たわっている。
はて、これは? 何が起こったのだ?

 

原題は単純そのものに「ループ」。
バタフライエフェクト」と同じように、恋人を助けるために過去へ戻るというのが大きなあらすじ。
しかし、この映画の世界はパラレルワールドではなくて、一つの世界の時間軸を行き来する。だから、過去の世界では過去の自分と未来から来た自分が同時に存在したりする。
となれば起こりうるのは・・・。

 

物語はそこから1年前にさかのぼる。
タイムトラベルの理論を研究しているダニエルは、好き理解者の姉シモーネと暮らしている。
(このお姉さんがフランクでさばさばしていて、とても好いキャラクターだった。)
あるパーティでダニエルはマリアを見そめ、つきあい始める。
しかし、ある夜に冒頭のように彼は何者かに襲われ、マリアは死んでしまうのである。

 

マリアが死んでしまって自棄になったダニエルだったが、取り調べを受けた彼は警察から意外なことを聞かされる。
犯人が告げたあの言葉「今度はもっと急げ」は、これまでの複数の未解決殺人事件の犯人が残した言葉と一緒だったのだ。
そしてその殺人事件の被害者のひとりはダニエルの父だったのだ。

 

正直なところ、前半がいささか長い。
ダニエルがタイムマシンを発明して時間軸が動き始めるのは映画の真ん中あたりになってからである。
そこまでにいろいろな謎が散りばめられる。
これを覚えておくほど、後半の面白さが味わえるようになっている。さあ、見過ごさないようにしなくては、ね。

 

幼かった頃のダニエルとシモーネの逸話も明かされる。
そしてシモーネの協力もあってタイムマシンが完成する。
さあ、これで過去に戻ってマリアの死を防ぐぞ。そのエネルーギー源は高いところから飛び降りたときの重力エネルギーだ。
ん?

 

そのうちに連続殺人犯らしい初老の男もダニエルにちかづいてくる。
おのれ、父を殺したのはおまえだな!
待ってくれ、あれには深いわけが在ったのだ。理由を聞いいてくれ。

 

終盤にちかづくにつれ、前半に散りばめられていた伏線が次々に回収されていく。
これは興奮するほどにすばらしかった。なるほど、そうだったのか!

 

(以下、ネタバレ)

 

そもそもダニエルがマリアをはじめて見そめたときに、彼女は見知らぬ男と話しており、弟を助けてやろうとシモーネがその男に無理やりキスをして、マリアを男から離したのだった。
しかし、その男というのは、実は・・・。なるほど、そうだったのか・・・。

 

ダニエルはシモーネの首筋にあった刺青の模様からタイムマシンの理論を完成させるヒントを得ていた。
しかし、その刺青というのは、実は・・・。なるほど、そうだったのか。

 

一番のポイントはあの連続殺人犯の正体。実は彼は・・・。
えっ、そういうことだったのか。そういうわけがあったのか。

 

オチは「プリディステネーション」と同じなのだが、あれよりは判りやすくなっている。
この手の映画が好きな人にはお勧めできるレベルのものだった。

 

(以下、本当にネタバレ)

 

しか~し、よく考えればマリアを(誤って)殺してしまったのは自分なのだし、過去に戻ってどうしようとしたのだろう?
それに、二人のいざこざの原因はマリアの心変わりだし・・・。
主人公たちにはあまり共感は出来ないなあ。
お姉さんだけはいい人だったけれど。

 

(ツッコミをひとつ)
そもそも主人公が過去に戻らなければ彼女は心変わりもしなかったし、彼女が死ぬこともなかったのでは?
とすると、主人公が残すべきは、今度はもっと急げ、という言葉よりは、タイムトラベルなんかするなよ、という警告だったのでは(汗)。