あきりんの映画生活

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「北の橋」 (1981年)

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1981年 フランス 127分
監督:ジャック・リベット
出演:ビュル・オジェ、 パスカル・オジェ

ヌーベル・バーグ風味の奇妙な映画。 ★★★★★

原付バイクでパリの街を疾走するバチスト(パスカル・オジェ)は、ライオンの彫像に見とれたり、バイクを買ったばかりの男にちょっかいをかけたりする。一方、マリー(ビュル・オジェ)は刑務所から出たばかりで閉所恐怖症となっている。この二人が偶然に出会う。

監督のジャック・リベットは「カイエ・デュ・シネマ」の批評家でもあり、ゴダールらと同じヌーベルバーグの旗手であった。
映画は、胡散臭いマリーの恋人が抱えているらしい秘密や、謎の新聞記事の切り抜きファイルや、双六に見立てたパリの街の不思議な地図、などがでてきて、うわべはミステリー仕立てに見える。

冒頭でバチストがちょっかいをかけたバイクの男も曰わくありげに何度も近寄ってくる。
しかし、謎が解かれたり、殺人の理由が説明されたり、などということは全くないままに物語はすすみ、そして終わってしまう。
この映画の目的はそんな物語の構築にはないのだ。

この映画で舞台となるパリの街は、高層アパートの裏の工事現場であったり、廃線となって雑草が生える線路跡だったりする。
汚れた街の風景が、どことなく投げやりな雰囲気を終始漂わせる映画にマッチしていて、いいなあと思わせる。
そこに時折かぶさるピアソラのタンゴも、おおっと思わせる。

どことなく投げやりな雰囲気と書いたが、ほとんどの場面は即興的にとられたのではないかと思われるような中途半端さがある。
だから主人公たちの行動はほとんどの場合でたいした意味を持たずに進んでいく。
たとえばバチストが喧嘩している子ども達を仲裁するのだが、いい加減に収めるものだから子ども達の喧嘩はすぐに元へ戻ってしまう。
見つけた死体を隠そうとしてマリーが枯れ枝をかぶせるのだが、なんにも隠せないままに止めてしまう。

はじめは少し変わった女の子といったイメージだったバチストは、物語がすすむにつれて明らかにおかしい事が分かってくる。
どうやら妄執にとらわれた『ドン・キホーテ』がモチーフになっているらしい。
彼女が遊園地の滑り台をドラゴンに見立てて独りよがりの戦いを挑んだりするのも、風車に突っ込んでいくドン・キホーテと同じ意味あいなのだろう。

最後になって映画は突然物語であることを止める。

(ネタバレ)

マリーはあっけなく恋人に殺されてしまうのだが、これまでの物語性を否定するかのように死を選択することは、ゴダールの「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」でもお馴染みだ。
一方、バチストの方はバイクの男に空手の型の指導を受けはじめて、物語から抜けだしてしまう。
こうして呆気にとられて映画は終わる。

物語としてはまったく意味をなさない展開のままなのだが、なんとも不思議な魅力を持った映画である。
バチストを演じたパスカル・オジェは26歳を目前に急死しており、母、ビュル・オジェと共演した唯一の作品とのこと。

ゴダールあたりが好きな方なら、とても気に入ると思います。