あきりんの映画生活

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「ジョーカー」(2019年)

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2019年 アメリカ 122分
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、 ロバート・デ・ニーロ

暗く悲しいピエロ。 ★★★☆

 

最近の映画で、これだけ様々な論評が書かれたものは他にはないだろう。
いろいろなことを言いたくなる内容であり、また、それだけの読みができる作品ということでもある。
アメコミ原作とは思えないしっかりとした重い人間ドラマになっていた。

 

もちろんこのジョーカーというのは、あのバットマン・シリーズの悪役のジョーカー。
これまではジャック・ニコルソンヒース・レジャーが演じて、それぞれに高く評価されてきた。
で、今回のホアキン・フェニックスはどうだったかというと、まったくもって見事としか言いようがなかった。

 

(これだけ評判になった作品なので、以下はネタバレで書いています)

 

アーサー(ホアキン・フェニックス)は体の弱い母と2人でひっそりと暮らしている。
コメディアンをめざす彼は、ピエロのメイクで大道芸人をして日銭を稼いでいた。
しかし、彼は不意に笑い始めるという病気を抱えていた。

 

社会の底辺にいて、しかも精神的な持病を抱えている者が、さらに狂っていく。
雰囲気は異なるが、奇しくもロバート・デ・ニーロが演じたあのタクシー・ドライバーを思い出してしまった。
社会が人を狂わせるのか、それとも狂った人だから社会からはみ出していくのか。

 

不意に笑い始めるという病気だが、これは彼の精神が対応不可能な状態に陥ると症状が出るようだ。
つまり、一番笑いたくもないような辛い状況の時に笑いだしてしまうのだ。
なんとも皮肉なことなのだが、悲惨でもある。
こんな病気があると、他人は彼を気味悪がって疎んじ始めるだろうな。

 

母は資産家のトーマス・ウェイン(バットマンのお父さん)がアーサーの父親だと告げる。
しかし、それは精神病院に入っていたこともある母の妄想だった。
しかもその母も実の親ではなかった。
貧しくても母の介護を必死でおこなってきたアーサーの中で、何かが崩れていくのだろう。

 

そればかりではない。
同じアパートのシングル・マザーのソフィーとの付き合いは、アーサーにとっては唯一のオアシスのようなものだったはず。
しかし、ソフィーとのその恋人関係も、実はアーサーの妄想だったのだ。
えっ、それでは映画に描かれているどこまでが本当のことなのか? どこからはアーサーの妄想なのか?

 

クライマックスはそのロバート・デ・ニーロ扮する人気キャスターがおこなっているTVのバラエティ・ショー番組。
ゲストとして出演したアーサーは、番組構成を無視して社会に対する不満をまくし立て、自分の考えを訴え、常識的な考えで支配されている世界を挑発する。
そしてその発言を阻止しようとしたデ・ニーロを・・・。

 

ホアキン・フェニックスの病的な笑い声が、いつまでもまとわりついてくる。
楽しくての笑いではない、苦しいがゆえの笑いなのだ。

 

映画は始めから終わりまで、終始暗くて重苦しい。
決して観て楽しいというような映画ではない。映画に単に娯楽を求める人には向いていないだろう。
それでもすごい映画を観てしまったという充実感は確実にある。


ヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞しています。
それだけの内容は確かにある作品でした。