2007年 レバノン 96分
監督:ナディーン・ラバキー
出演:ナディーン・ラバキー
エステサロンでの人間模様。 ★★★
イタリア映画、スペイン映画、メキシコ映画と来て、今回はレバノン映画(笑)。
レバノン、そしてベイルートといえば、中近東の紛争地帯のイメージがある。
この映画はそんな街での市井の人々の生活を描き、そこに生きる女性たちの人間模様を描いていた。
ベイルートの一角にあるエステサロンが舞台。
そこで働く3人の女性、1人の常連客、そして店の向かいに住む老婦人、この5人の人生ドラマである。
店のオーナーであるラヤールは不倫の恋に陥っている。
妻とは別れるという男の言葉を信じて、彼からの電話があれば、仕事の途中でも会いにいってしまう。
しかし彼はいつまでも奥さんとは別れてくれない。
店で働くニスリンは結婚が決まり、その準備で気持ちも浮き立っている。
しかし彼女は処女ではないことをフィアンセに隠していた。どうしよう?
どうもレバノンでは新婦が処女であるということはかなり大事なことらしいのだ。
日本でいえばいつの時代の倫理観念だ?(苦笑)
店で働くもう一人のリマは男っぽい雰囲気。
と、彼女を指名してやってくる美しい女性があらわれる。お互いに惹かれ合っていくようだぞ。
レバノンの同性愛事情は判らないのだが、映画では二人の淡い感情しか描かれない。
その他には常連客で(ちょっと図々しい)女優志望のジャマル、認知症の姉の面倒をみるために人生を諦めている初老のローズが登場する。
オープニングに何かを煮詰めたようなどろどろの粘いものが映る。
これがタイトルにもなっている「キャラメル」で、砂糖とレモン汁を煮詰めて水飴状にしたもの(日本語風にいえばカラメルだな)。
甘くて美味しいらしいのだが、中東では脱毛処理に使うとのこと。
まだ熱いキャラメルをムダ毛の部分に塗って、ムダ毛と一緒に勢いよく剥がす。結構痛そう。
彼の誕生日を祝う二人だけのパーティをホテルの一室でしようとするラヤール。
しかし、ホテルの部屋を取ろうとしても、レバノンのきちんとしたホテルでは正式な夫婦でないと男女は一緒に泊まれないようなのだ。
身分証明書を要求されて断念するしかないラヤール。
やっと部屋が取れた売春宿のような薄汚れたホテルの一室を、隅々まで掃除をして汚れを落とし、飾り付けをするラヤール。
それなのに、彼からは、やっぱり行けない、という電話が来てしまう・・・。
ラヤールはキャラメルを使って、彼の奥さんへのささやかな意地悪をしたりする。
ニスリンの処女膜再生手術の騒動や、ローズの初めてで最後の恋、なども描かれる。
主演のラヤール役が目鼻立ちが濃くて美しい女優さんだなと思っていたのだが(ポスターの左側の女性)、なんと監督自身だった。びっくり。
なんでも「世界で最もパワフルなアラブ人100人」で女性トップに選ばれているとのこと。なるほど。
脚本も彼女自身が書いている。才色兼備の人なのだな。
最後、長かった黒髪をリマにショートにカットしてもらった美しい女性が浮き立つような足取りで街を歩いていく。
ショーウインドウにその髪型の自分を映しては嬉しそうに微笑む。
そしてローズは、路上に落ちている紙を拾いあつめようとする姉の手をやさしく引いて街中を歩いていく。
登場人物を見つめる視線がやさしい。
それぞれの女性の生き方を女性監督らしく捉えていた。佳い映画でした。