あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです(苦笑)。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。

「サクリファイス」 (1986年)

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1986年 スゥーデン 149分
監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:エルランド・ヨセフソン

世界が終わる1日か、世界が始まる1日か。 ★★★★

 

美しくも眠くなるような、脳の中に静かな波が打ち寄せてくるような、そんなタルコフスキーの映画。
これまでには「ノスタルジア」「ソラリスの海」「ストーカー」を観ている。本作は彼の遺作である。

 

冒頭で、主人公のアレクサンデルは海岸で樹を植えている。
傍らでは言葉を発することができない幼児が大きな帽子をかぶってその手伝いをしている。
この場面からして美しい。静止画像にすれば絵葉書のような光景で、それを眺めているだけで自分だけの物語が浮かんでくるようである。

 

この日はアレクサンドルの誕生日で、それを祝うために何人かの友人も訪れてくる。
郵便配達夫のオットー、医師のヴィクトル、娘のマルタ、小間使のジュリア。
しかし祝い事なのにもかかわらず人々は静かで、どこか沈鬱でさえある。
乏しい家の中の光で、色調は淡く、東欧の絵画を思わせる絵柄である。

 

アレクサンドルは高名な舞台俳優だったようなのだが、ある理由で引退している。
そのことが不満な妻は、今も夫を詰りつづけている。
どうも彼女は精神的に病んでいるような雰囲気もある。
そして召使のマリアは、もう帰ってもよろしいですかと、屋敷から退出していく。
彼女は魔女だといううわさもあるようなのだ。

 

オットーは不思議なできごと話を集めているのだと語り、突然失神して倒れる。
意識を取り戻した彼は、悪い天使が傍らを通り、その翼が触れたために倒れたのだ、と説明する。
ふ~む、そうなのか。

 

居間に集まっていた皆は、テレビで核戦争が勃発したことを知らされる。
そしてテレビは途絶え、電話も電気も通じなくなる。
世間から、いや、そこにいる人々以外のすべてから隔離されてしまったのだ。
廃墟と塵だらけになって世界が荒廃した光景が、断片的に挟み込まれる。
それは、誰かの脳内に広がっている光景のようにもとれる。

 

時間はどのように経過したのか。
もう夜なのか、それとも長い夜が明けたところなのか。
アレクサンドルは、滅ぼうとしている世界から愛する人々を救うために自らを犠牲に捧げようとする。

 

タルコフスキーの映画といえば、象徴的に水と炎が描かれるのが常だ。
今作でも、ぽつんと植樹した樹の背後には海がひろがり、地を濡らす水が描かれる。
そして炎。
俗世での日常生活を焼き払うような火が燃えるのだ。

 

とても宗教的なことも描かれているようなのだが、宗教心に疎い私にはその点についてはまったく判らなかった。
何が語られていたのかを言葉で説明することは難しい、そんな映画である。
ただ圧倒的な美しさ、静けさには今作でも魅せられた。

 

カンヌ映画祭で4賞を受賞しています。これは史上初だったとのことです。