あきりんの映画生活

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「望み」 (2020年)

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2020年 日本 108分
監督:堤幸彦
出演:堤真一、 石田ゆり子

殺人事件に関与する家族の苦悩。 ★★★☆

 

これは観ている間中、こちらも息苦しくなってくるような作品だった。
もし、こんなことが我が家で起こったら、自分はどちらを望むのだろう?
雫井脩介の原作も評判となっていたが、未読のままで映画を鑑賞。

 

石川一登(堤真一)と貴代美(石田ゆり子)夫婦は、高校生の息子・規士、中学生の娘・雅と優雅な生活をしていた。
しかし、規士は怪我でサッカー部を辞めて以来、悪い遊び仲間が増え、無断外泊もするようになった。
そんな日に、無断外泊していた規士と連絡がとれなくなってしまう。
やがて、規士の同級生が殺されたというニュースが流れる。

 

この映画の要は、自分たちの息子がどのように殺人事件に関わっているのか、という家族の葛藤、苦しみである。
逃亡している殺人犯は2名。
しかしそのほかにもう一人、行方不明になっている仲間がおり、やはり殺されている可能性があると警察がつきとめる。
その3人の中の一人が規士であるようなのだ。

 

自分たちの息子は、殺人犯なのか?
それとも、自分たちの息子は被害者で殺されてしまっているのか?
いったい、息子がどちらである方が、息子は、そして私たち家族は幸せなのだろうか。
どちらを願ったらいいのだろうか?
これは辛い、辛い二者択一である。

 

母親の貴代美は、たとえ息子が犯人であっても生きていてほしい、と祈る。
しかし、それはこれからの息子の一生が罪を背負うものになるだけではなく、家族の一生も世間に責められるものになる可能性がある。

 

規士が犯人の一人だと決めつけるマスコミは家の前に押しかけ、マイクを突きつけてくる。
家の塀や玄関扉には、殺人者、ここから出て行け、などと大きく落書きされる。
一登は建築士だったのだが、事件を知った顧客も仕事をキャンセルしてくる。
もし、規士が犯人だったら、息子が生きている代わりにこんな生活がこれからずっと続くわけだ。

 

父親の一登は、被害者であっても無実でいてほしい、と願う。
息子が殺人者などであるはずがないと、息子を信じようとする。
それが家族にとっても幸せなことだと考える。
でも、それは息子が死んでいることを願うことにもなる。
辛い望みである。

 

映画を観ながら、もし自分が一登や貴代美と同じ状況に置かれたら、いったい自分はどう考えるろうか、どちらを望むだろうか、と考えてしまった。

 

父と母は、食い違う自分たちの望みで激しく言い争いをする。
自分の子どもの死を願うなんて、考えることも出来ないっ!
自分の息子が悪人ではないことを信じてやれないのかっ!
どちらもよく判る。どちらも正しい。
でも、どちらか片方しかあり得ないのだ。

 

マスコミや、周りの人々の勝手な思い込みによる正義感もとても怖い。
今の我が国社会での人間関係のぎすぎす感がもろにあらわれている。
なにかがあれば、人々は無名・大多数に与して勝手な満足感を得ようとしているようだ。

 

やがて事件は結末を迎える。
はたして、父母の望みはどうなったのか。
自分たちがこうであって欲しいと望んでいたことは、心の奥底にあった望みと一緒だったのか。

 

堤真一石田ゆり子の演技も自然体で、事件に向き合う家族の苦悩をよく伝えていた。
見応えのある作品だった。