2012年 日本 128分
監督:行定勤
出演:阿部寛、 小泉今日子、 野波麻帆、 風吹ジュン、 真木よう子、 忽那汐里、大竹しのぶ
一人の女性に翻弄された5人の女たち。 ★★★
井上荒野の原作は大変に面白いものだった。
あの小説がどんな風に映像化された?
惚れぬいた艶という女と駆け落ちをして大島に住み着いた松生(阿部寛)
しかし、艶は、松生と暮らしながらも他の男の愛を求め続けていた。
そんな艶が病に倒れ、意識不明の危篤となる。
どうしたらいいのか混乱する松生は、艶を見舞うために島の急坂をママチャリを必死に漕ぐ。
そして、艶を失うことを独りでは受け入れられない松生は、これまでに艶が愛した過去の男たちに彼女がもうじき亡くなることを連絡する。
映画は、艶を中心にしたオムニバスのように4つの章で構成されている。
それぞれの物語は、艶と関係した男の傍らで生きる女を主人公にして展開される。
たとえば、かって艶の処女を奪った従兄の奥さん(小泉今日子)とか。
(パーティ会場で、彼女が夫の愛人と赤ワインの掛け合い喧嘩をするのは面白かった)
次の章に出てくる野波麻帆という女優は初めて観たが、まあ、なんというか、男にとっては危険で魅力的な雰囲気だった。
彼女が関係するのが、艶の元・夫の岸谷五郎。
資産家らしいのだが、いつも着流しで世捨て人のような生活。
そんな彼が、僕は真珠を入れているんだよ、と野波を誘惑するところがなんともミスマッチで楽しい場面だった。
その他にも、夫が艶と不倫をしていた風吹ジュン、艶がストーカーのようにつきまとっていた若者の恋人の真木よう子も出てくる。
艶が関係した男たちが直接描かれるのではなく、その男たちと人生が交差した女たちが描かれる。
少しまだるっこしい感じはあるのだが、様々な人生模様だった。
最後の逸話に出てくるのが大竹しのぶと忽那汐里の母娘。
大竹しのぶが、艶と一緒にいなくなった夫の写真を今でも今に飾ってぼんやりと眺めている、というのが説明不要で情緒的だった。
実は、松生は、彼女たちの夫と父だった。
死の床にある艶に会いに大島までやって来た大竹しのぶが、やせ衰えた艶の胸をはだけてそこにある歯形をじっとみる。
彼女は何を納得しようとしたのだろうか。いや、何に納得すれば満足できたのだろうか。
映画の初めから終わりまで艶の顔が映ることはない。
これは巧みなやり方で、こんなに男たちを振り回した艶は、いったいどんな女だったのだろうと、観る人がそれぞれに思い描くわけだ。
人生って、何だ? と思わせるものがあった。
艶の葬儀には男たちは誰も来なかった。
松生は、艶を最後まで愛したのは自分だけだったのかと、勝ち誇ったのだろうか、それともそんな自分をみじめに思ったのだろうか。
原作の雰囲気も好く出ていて、それぞれの女優の競演も楽しめた。