あきりんの映画生活

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「神々のたそがれ」 (2013年)

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2013年 ロシア 177分
監督:アレクセイ・ゲルマン

とんでもない寓話。 ★★★★☆

 

原作はロシアのSF作家ストルガツキー兄弟。彼らはタルコフスキー監督の「ストーカー」の原作を書いている。
だから、きっと一筋縄ではいかない代物だぞ。観るのにはそれなりの覚悟がいるぞ。
しかし、そんな覚悟なんて軽く一蹴されてしまうほどにすさまじい映画だった。
原題は「神様はつらい」。・・・何が辛いんだ?

 

3時間近くのモノクロ作品。
完成までに15年がかかったとのこと。それだけ監督のこだわりがすごいわけだ。
しかし、ゲルマン監督は完成目前に他界したために、妻と息子が最終工程を引き継いで完成させている。

 

端的に言って、ストーリーはよく判らない。
地球から800年ほど文明の遅れた惑星に、調査のために送り込まれた学者ドン・ルマータが主人公。
彼は住民たち(外見も言葉も地球人と変わらない)から神のように崇められる存在になっている。
カメラは、その彼の記録映像というか、どこかへの報告映像として撮られている、という感じのものとなっている。

 

だから、ときおり、住人たちはそれらを映しているカメラを覗きこみながら視界を横切ったりする。
彼らが視線を送ってくるので、映画を観ている我々もまた彼らに観られているような気にもなってくる。

 

中世ヨーロッパを思わせる石造りの街は汚れ放題で、汚泥と糞尿にまみれている。
街は沼に囲まれており、時折り襲ってくる豪雨と、いつも長くつづく霧で、すべてはびしょびしょと濡れている。陰鬱さが街を覆っている。
人々の衣服もこれでもかというほど汚れており、しかも、泥や汚物を顔に塗りたくる風習があるようなのだ。
もう、汚さの極地である。

 

映画は誰がだれで、どういう立場なのか、あまり説明がないまま進んでいく。
どうもこの星では、上級階層の輩が知識人たちを次々と処刑しており、焚書もしているようだ。
彼らの周りには兵士がいて、武力支配をしているのだ。住民たちはただおろおろしている。
中世ヨーロッパの暗黒時代のような雰囲気である。

 

汚泥、血、糞尿、体液、そして不味そうな食べもの・・・。
人間が生きていくうえでの嘔吐物と吐瀉物を、これが人間の根源だとでもいうように露悪的に描いている。
とにかく汚いものをこれでもかと見せつける描写なのである。
あえて不快に感じられる様に計算している画面作りで、世界はこんなに汚い、それでも神様は観ているしかできない、神様も辛いのだよ、と言っているのだろうか。

 

大雑把な筋としては、その後、上層階級から追われていた僧たちが僧兵となって都へ攻め入ってくる。
虐げられていた農民たちも反乱を企てて都へ押し寄せてくる。
もう秩序も何もない。混乱の極みとなる。

 

ついに、”何もしないでただ観ているだけの神様”だったドン・ルマータは、都の住人を一掃しようとするのだ。
ほとんどの住人が死に絶える。
降りはじめる粘つくような豪雨、そして雪景色の世界。

 

マーティン・スコセッシ監督は、この映画について「わけが判らなかったがとにかく凄い」と言ったとか。
奇妙な風習の異星にまぎれこんだ地球人の映画としては「不思議惑星キン・ザ・ザ」があった。
あちらは呆気にとられるような軽~い乾いた滑稽さと脱力感があった。
それに比して、こちらはどこまでも重く、じっとりと湿っている。どこまでも陰鬱(そして汚い)。

 

しかし、”とにかくすごい”ことには間違いない作品です。