あきりんの映画生活

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「スパイの妻」 (2020年)

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2020年 日本 115分
監督:黒沢清
出演:蒼井優、 高橋一生

戦争の裏側で。 ★★★

 

TVで同名の番組を放送していたので(未見)、あれ?と思っていた。
実はこの映画は、元々はNHKで放送された同名ドラマを、スクリーンサイズや色調を新たにして劇場版としたものとのこと。
ということは、粗筋も出演者も同じということ? TVドラマを観た人がわざわざ映画をまた観に行く?

 

舞台は太平洋戦争勃発直前の1940年の神戸。
ヒロインの聡子(蒼井優)の夫・福原優作(高橋一生)は貿易会社を営み、優雅な生活を生活を送っていた。
そんな聡子の生活に戦争の影が忍びよってくる。

 

タイトルからは、本格的な諜報活動に従事する妻を描いた作品かと思っていた。
まったく違った。この妻は世間知らずのお嬢様育ちで、どこまでも夢見がちだったのだ。
どちらかといえば、一人で自分の作った物語の中へ入って行ってしまうような、そんな妻だったのだ。
そんな妻を蒼井優が巧みに演じていた。

 

優作は貿易商だから外国との取引もある。生活も当然ながら洋風である。
憲兵となった甥の津森(東出昌大)は、そんな優作夫婦が世間からのみならず、政府からも反日的だと見做されることを心配していた。
そんなある日に商用で満州に渡った優作は、同地で衝撃的な国家機密を知ってしまう。

 

満州関東軍が新しい殺戮兵器開発のために人体実験をおこなっていたことは、今では公にされている。
しかし当時は軍の極秘事項であった。
その秘密の証拠の8mm映像を日本へ持ち帰ってきた優作は、アメリカへ脱出して世界の世論に訴えようとする。

 

そのことを知った聡子は、私もスパイの妻として頑張るわ、とテンションを上げていく。
おいおい、夫はスパイじゃないだろ。義憤に駆られて個人で行動しているんだろ。
でも聡子が、夫はスパイなんだ、と思い込んでいるのだから、まあ、仕方がないか。

 

実はこの映画の大きな流れは、サスペンスではなく、夫婦の愛の物語だったのだ。
当初、優作は危険な秘密を聡子には隠しておこうとする。君は何も知らなくていい、僕がいいようにするから。
と言っておきながら、優作はその証拠資料と映像フィルムを、聡子が開け方を知っている金庫に隠したりする。
これ、おかしくね?

 

秘密を知った聡子とともにアメリカへの密航を企てた優作。
異なるルートで日本を脱出する手はずだったのだが、貨物船に隠れた聡子はあっさりと発見されてしまう。
自分の脱出を成功させるために、優作は聡子を目くらましに利用したのだ。
騙された聡子が呟く、「お見事です!」 
 

(以下、結末に触れます)

 

5年間の太平洋戦争が終わり、映画も終わっていく。
エンディングの字幕でその後の経緯が淡々と告げられる。
優作の死亡報道、しかしそれは偽造されたものとの報告もある、と。
そしてその翌年、聡子はアメリカへ渡った、と。

 

たったそれだけの字幕である。
解釈は観ている人に任されるのだが、すべては優作が仕組んでいたのだろうと思えた。
妻を安全な場所に留めるための、あえての密航の密告。
そして戦争が終わり、実は生きている優作は聡子をアメリカへ呼び寄せた・・・。

 

果たして聡子は優作のそれらを見通していたのだろうか
彼の計画と愛をどこまで信じていたのだろうか。

 

夫婦のそれぞれの思いやりが交差して、騙し騙され、といった様相を呈するところが「お見事です!」というところ。
物語としては面白かったのだが、ただ、映画全体の印象としてはやや散漫な感じを受けてしまった。
ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞している。
個人的にはこの映画が監督賞?と思ってしまった。黒沢監督ごめんなさい。