2017年 イギリス 108分
監督:リテーシュ・バトラ
出演:ジム・ブロードベント、 シャーロット・ランプリング、 エミリー・モーティマー
青春の苦い記憶。 ★★★
中古カメラ店を営みながら独りで年金生活を送っているトニー(ジム・ブロードベント)。
ある日、初恋の女性ベロニカの母親セラ(エミリー・モーティマー)が亡くなり、彼女が一冊の日記を彼に遺したとの連絡を受ける。
その日記は、トニーの学生時代の友人エイドリアンのもので、今はベロニカがもっているとのことだった。
はて、どうしてセラが私にエイドリアンの日記などを遺したのだろう?
はじめのうちは、人間関係を理解するのにちょっと戸惑う。
実は、ベロニカはトニーと別れてエイドリアンと付き合うようになったのだった。
そしてその彼はやがて自死してしまっていた。
そんなエイドリアンの日記をがなぜセラが持っていたのか。しかもベロニカはその日記をトニーへ渡さないと言っているという。はて?
この映画は初老となった主人公のトニーが青春時代を振り返る物語。
エイドリアンと親しくなった高校時代のこと。
大学生となったトニーがベロニカと出会い、つき合った日々のこと。ベロニカの家族にも紹介された日のこと。
そして、つきあい始めたベロニカとエイドリアンの二人へ送った手紙のこと・・・。
甘い青春時代の思い出・・・のはずだった。
しかし、数十年ぶりに再会したベロニカ(シャーロット・ランプリング)が突きつけてきた過去は、トニーが思い込んでいたものとはまったく違っていた。
ああ、そうだった、本当は、自分はベロニカとエイドリアンに酷いことをしてしまっていたのだった・・・。
自分は、都合のいいようにしか覚えていなかったんだ・・・。
現在のトニーは妻とも別れ、身重な一人娘からも疎んじられ気味。
それもこれもトニーが偏屈で、他人に思いやりがないから。
主人公役が分別があり、人徳もありそうなジム・ブロードベンドが演じているので、つい、好い人のように思わされそうになる。
主人公は、結局はかっての自分の未熟さ、残酷さを吐露して甘えているだけのように思えてしまった。
若かった自分はこんなにも愚かだったんだ、許してくれ。
どうもそれだけでかつての過ちを払拭しようとしているように思える。
しかし、そんな簡単なことではないぞ。
シャーロット・ランプリングの冷ややかな視線を見れば、そんなことで許されていないことはひしひしと伝わってくる。
薄い唇をわずかに上げた皮肉っぽい彼女の表情は、主人公の謝罪を敢然と拒否している。
出番はそれほど多くはないのだが、ランプリングの存在感はやはりすごい。
映画は、過去と向き合おうとしたトニーが今の自分も省みるようになって、別れた妻、娘との関係修復をなしていく。
トニーが自分の過ちを認めたことで、これからの生き方は変わっていくのだろう。
いささかきれい事過ぎるきらいはあるようなのだが・・・。
誰でもが、若かった頃の行為にはなにがしかの忸怩たる思いがあるのではないだろうか。
記憶は自分の都合のよいように改変されるのが常である。
あの頃のことは、はたして自分が思い込んでいた通りだったのだろうか。
我が身を振り返れば、背筋が薄ら寒くなってくる事柄もあるのだ。