あきりんの映画生活

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「イレイザーヘッド」 (1976年)

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1976年 アメリカ 89分
監督:デヴィッド・リンチ
出演:ジョン・ナンス

D・リンチの初長編映画。 ★★★★

光と陰影が強調されたモノクロの画面に、悪夢のような物語が展開される。
とにかくD・リンチの作品だと思って、覚悟して見はじめないことにはえらいことになる映画。

消しゴム頭の髪型をしたヘンリーは、女友達メアリーが自分の赤ん坊を産んだことを知らされる。
狭い部屋で二人は暮らしはじめるのだが、その赤ん坊は奇怪な姿形をしていた。
やがて、赤ん坊の悲鳴にもにた鳴き声にノイローゼとなった彼女は部屋を出ていき、ひとり残されたヘンリーが赤ん坊の世話をする。

と、こんな風にストーリーを書いても、ほとんど意味はない。
この映画でのストーリーは奇妙な場面をつなぐための役割であって、ストーリーを語るために場面があるのではない。
主役は場面であり、状況である。
悪夢には妙な現実感があるのに、なにかを伝えるべきストーリーがないのと同じである。

それにしても、あの奇怪な赤ん坊の造形は印象的。生まれたばかりのトリの顔のようにも見える。
あの「ET」にも影響を及ぼしたのではないかと思えてしまう造形である。
その赤ん坊の眼の動きの不気味さ。
それに、赤ん坊が発病したときの吹き出物のおぞましさ。
その赤ん坊があんな泣き声を出しつづけたら、メアリーでなくてもノイローゼにもなるわな。

トリに似た赤ん坊への布石は、ヘンリーがメアリーの家に招かれて出された食事にあった。
父親が料理したチキンは(この父親も、途中で妙な笑いを浮かべたまま化石のように硬直してしまう)、ヘンリーが切り分けようとすると、ふいにカタカタと体を動かしはじめ、内部からドクドクと黒い液体を吐きだしはじめるのだ。

ヘンリーが一人で部屋にいると、なんの脈絡もなしに、狭い舞台で頬こぶ少女(可愛い女の子なのだが、両頬にこぶとり爺さんのようなこぶが付いているのだ)が踊り出す場面になったりする。
のちのカルトTVドラマ「ツイン・ピークス」で、赤い小部屋で小人が奇怪な踊りをする場面を思い起こさせる。

ギョウ虫のような細長く柔らかい生き物も要所要所であらわれる。
メアリーの身体からその虫をつまみ出しては壁にたたきつけるヘンリー。
虫はびしゃ、びしゃとつぶれて壁にこびりつく。
頬こぶ少女は踊りながら、天井から落ちてくる虫を踏みつぶす。
ぐしゃ、ぐしゃ、・・・。虫の踏みつぶされた死骸が床を汚していく。

奇怪な赤ん坊が登場しているところから、あの虫は”悪夢化した精子”だという解釈もあるようだ。
なるほど、とも思う。
しかし、そんな解釈をしなくても、何も困ることもない。

全編をとおして、生き物の持つ根元的な不気味さが、これでもかと映像化されている。
終わり近くに、ヘンリーが赤ん坊を包んでいた包帯のような布を切り開く場面がある。
すると、赤ん坊の身体の内部が露わになる。
生き物の内部で、蠢いているもの、破綻するもの、噴出するもの、そしてとり囲むもの・・・。

一言でいえば、気持ち悪い映画。
しかし、その気持ち悪さは、人が生きていくときに自分の中に、あるいは他人との関係の中になにか感じてしまうものに通じている。
生きていくこと自体の気持ち悪さ、とでも言ったらいいのだろうか。

だから、怖いもの見たさで、もう一度観てみようかなと思わせる魅力を持っている。

一度は観てみましょう。できれば、夜中に一人で。