あきりんの映画生活

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「騙し絵の牙」 (2021年) 売れる雑誌はこうやって作れ!

2021年 日本 113分
監督:吉田大八
出演:大泉洋、 松岡茉優

出版会社の裏事情。 ★★

 

予告編がすごく面白そうだったので少なからず期待をしていた。
そうしたら、・・・あれ? こんなもの?
原作は塩田武士の同名小説(未読)。

 

ネット社会が広がるにつれて、紙媒体の出版物業界はいずれも苦境に立たされている。
新聞社しかり、週刊誌や雑誌の出版社しかり、である。
この映画の舞台も、そんな不況の波にもまれる大手出版社。
おまけにこの会社は創業一族の社長が急逝して、その後継者をめぐっての権力争いがわき起こっている。
社員幹部たちは、会社はもちろん自分の存亡を賭けたあの手、この手で、そりゃもう大変。

 

主人公は、そんな会社の雑誌「トリニティ」の編集長に抜擢された速水(大泉洋)。
雑誌は業績が上がらなければ廃刊されそうな情勢なのだ。
そこで、人当たりが好い(ように見える)彼は、ポジティブ思考(のように見える)で部下を鼓舞して雑誌の立て直しをはかる。
一見、善良そうな早見なのだが、その実、彼は目的のためには平気で人を騙すような人物だったのだ。

 

この映画は大泉洋の飄々とした演技で魅せるものとなっている。
彼の真面目なのだか、ふざけているのか、真剣なのか、いい加減なのか、捉えどころのない雰囲気が上手くはまっている。
相手をおだて、時に巧みに操って(騙して、とも言う)計画を実行しようとする。
なんでも、原作小説そのものが大泉洋に当て書きをしたもの、とのことだった。

 

そんな彼を引き立てていたのが、出版に純粋な情熱をかたむける編集員の高野(松岡茉優)。
彼女は、とにかく良い小説を発掘したい、良い作家を育てたい、というひたむきさで仕事をしていく。
彼女の実家が、今は本当に少なくなってしまった町の本屋さん。

 

出版社の内幕も描かれていて、なるほど、そうなのか、と思うことも少なくなかった。
たとえば、小説を中心とした月刊誌と、スクープ記事を中心とした週刊誌との勢力争い。
売れっ子作家と出版社の持ちつ持たれつの関係、などなど。
(以前に観た映画「ぱくもん。」では漫画家と出版社の関係が描かれていて、あれも興味津々の内幕ものだった)

 

さて、この映画の予告編は実に好くできていた。
印象的だった場面は、高野が「そんなに人を騙して面白いですか!」と問い詰めて、速見が「ああ、面白いね!」とうそぶくところだった。
しかし、本編では二人がやり合うそんな場面はなかったのである。
やりとりが面白かった二人の台詞は、まったく別の場面で個々に言われていたのである。なんだ・・。

 

そして速見のこの映画での一番の騙しが、結局は出版社の権力争いのためのものだった、というオチはちょっと肩すかしだった。

 

ということで、吉田大八監督は好きな監督だったのだが、本作は今ひとつだった。
大泉洋のキャラクターに頼りすぎた? といっては監督に失礼か。