あきりんの映画生活

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「蛇のひと」 (2010年) あれ、みんな少し不幸になっている?

2010年 日本 102分
監督:森淳一
出演:永作博美、 西島秀俊

悪意の口車。 ★★★

 

ベテランOLの三辺(永作博美)が出社すると、伊東部長(國村隼)が自殺したと知らされる。
さらに、三辺が秘書をしていた今西課長(西島秀俊)が失踪していた。
伊東部長の部下だった今西は、どうやら会社の金1億円を横領して逃げているらしいとのこと。
そこで三辺は、今西の行方を探れとの会社命令を受ける。

 

本作はシナリオ大賞受賞作を映画化している。
一人の人物のこれまで隠されていた素顔を次第に明らかにしていく、という展開は巧みだった。
三辺が今西の知人を訪ねて話を聞いていくに従って、会社では切れ者として皆にその手腕を買われていた今西の、別の人物像が見えはじめるのだ。

 

たとえば、同じアパートの隣にすんでいたのは、いつまでも売れない漫画家志望の男(劇団ひとり)。
もう止めようと思ったのに、今西に励まされたばかりに今も売れない漫画を書きつづけている。
あれ、こんなはずでは・・・。

 

前の会社の同僚は、今西の言葉に後押しをされて身分不相応のマンションを買ってしまう。
ローンを返済するために余儀なくされた共稼ぎ生活は、夫婦仲を疲れきったものにしてしまった。
こんな事になるのだったら・・・。

 

そして、浮気がばれたかつての先輩は、今西の提案で、妻と愛人との3人の共同生活を始めてしまう。
これ、どう考えても普通じゃないよな。

 

今西の知人の話を聞き回っているうちに、三辺はなんだか違和感を感じはじめる。
映画は今西の知人たちの証言の再現ドラマとして描かれるのだが、あれ、みんな、今西さんの言葉のせいで少し奇妙な生き方をするようになってしまっている?
みんな、少し不幸になったのではないかしら? 
はたして、今西がみんなにしてきた助言は親切心からのことだった?

 

永作博美は映画「八日目の蝉」で観てからのご贔屓女優さん。
可憐さとふてぶてしさが同居しているような、不思議な存在感があると思っている。
今作のときはアラフォーだったはずだが、一言で言って可愛い。大したものだ。

 

かつて三辺は、今西に、夜に口笛を吹くと蛇が来るぜ、と言われたことがあった。
そして、人は誰でも心の中に蛇(邪悪なもの)を飼っているのだ、と言われる。
今西の親身になってくれているような言葉は、実は彼の心の中の蛇が発したものだった?

 

そして三辺は今西の幼なじみから彼の生い立ちの秘密を聞かされるのだ。
えっ、そんなことが今西さんの過去にはあったの?
それでは伊東部長の自殺って・・・。
もしや今西さんは私にも・・・と、三辺が実家に戻るとそこに今西がいたのだった。
えっ!

 

(以下、ネタバレ)

 

今西は巧みな話術で他人の気持ちを捉え、そして操る。
他人が自分の口車に乗って人生を誤っていくのを見ることを楽しんでいる。
決して強要しているわけではない、あくまでも本人たちは自分の意思で人生を決めたと思っているのだが、いつの間にか自滅の道を歩んでいる。

 

マインド・コントロールともいささか異なるようだが、凄くリアルに感じられる。
実際にあんな口車だったら乗せられてしまいそうだ。怖いよ。

 

人の気持ちの、説明の付かない不思議な側面を描き出していた。