2022年 韓国 141分
監督:ハン・ジェリム
出演:ソン・ガンホ、 イ・ビョンホン
航空機パニックもの。 ★★★☆
韓国映画は観る作品を慎重に選ばないと、ときにとんでもなくずし~んとやられることがある。
特に、人間の持つ悪意とか、狂気とか、執念とか、そんなものを描いた作品は、よほどこちらの精神状態が落ち着いているときでないと観るのは辛い。
この作品は一種のパニック映画であり、そういった点については問題がなかった。
バイオテロを画策した犯人が、ウイルスの入った容器を自分の体の中に埋め込んでホノルル行きの飛行機に乗り込む。
この犯人役が上手い。
ウイルス学の博士号を持っているような頭脳明晰な青年なのだが、怪しい、どこか精神がイッテしまっている感じを紛々とさせている。
自分と一緒に機内の人間はみんな死ぬんだぁ!
機内で次第に事件が露わになっていき、パニック状態に陥っていく様は好くできていた。
まず粉状にしたウイルスがまき散らされたトイレに入った男性が、急に苦しみだしてあっという間に死んでしまう。
その男性を介抱しようと接触したキャビン・アテンダントもあっという間に死んでいく。
えっ、これ、何? 何が起きたの?
主人公は、その飛行機に娘とともに乗り込んだジェヒョク(イ・ビョンホン)。
混乱する機内で犯人を追及するのだが、その犯人も自分が持ち込んだウイルスで死んでいく。
そしてもうひとりの主人公が、奥さんがその飛行機に乗った刑事イ・クノ(ソン・ガンホ)。
ウイルスの正体を突き止めようと、そしてその治療法を探そうと、地上で大活躍をする。
インターネットが発達した現在、犯人はバイオ・テロを起こす予告動画をアップしていた。
乗客たちは、自分たちがこのバイオ・テロの標的にされたことも、正体不明のウイルスの治療法が判らないことも、ネット情報で知ってしまう。
機内の様子を撮った映像を乗客がSNSにアップして、マスコミも大騒ぎをはじめる。
何も隠しておくことができないのが今のネット社会なのだな。
ここからが今作の真骨頂だった。
一刻も早く飛行機を着陸させて感染者の救助にあたらなければならないのだが、機内に蔓延しているのは治療法も判らない未知のウイルスである。
韓国の担当大臣は緊急着陸をアメリカや日本に要請するのだが、自国内のウイルス汚染を恐れて両国はこれを拒否する。
誰だって病にかかった人を助けてやりたいと考える。
これは倫理的な人道に則った考え。誰もこれに異を唱える人はいないだろう。
しかし今の状況は通常ではない。自国民の安全を考えるのであれば、確かに着陸拒否という選択もあるだろう。
さあ、感染飛行機はどうすればいい? 韓国まで引き返せるか。
しかし操縦士は感染死してしまっていて、副操縦士が頑張っていたのだが、その彼も感染のために操縦ができなくなる。
さあ、操縦士不在飛行機はどうすればいい? このまま墜落してしまうのか。
この後の展開としては、機内ではイ・ビョンホンが、地上ではソン・ガンホが、それぞれに頑張る。
そしてやっと戻ってきた韓国で、国民は感染飛行機にどんな反応をしたのか・・・。
(以下、ネタバレ)
終盤、ああ、この情勢では仕方がないか、このまま自己犠牲の悲劇で終わるのか、と思いながら観ていた。
この過程を挟んだところが巧みだった。
これにより国民感情がひとつにまとまる結末を納得できるものにしていた。
かっての飛行機パニックものと言えば「エアポート」シリーズだった。
この映画はそこに、あの列車内感染パニックものの「新感染」を加味して、おまけに最後には「ハドソン河の奇跡」的なハラハラ感を付けていた。
大幅な2時間越えの長さだが、退屈する暇はなし。
人間的な葛藤のドラマ、それに少数への倫理観か多数への安全策かといった国家の判断なども盛り込んで深みを出していた。
韓国、エンタメ映画作りが上手いな。