あきりんの映画生活

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「崖上のスパイ」 (2021年) ウートラの意味は”夜明け”です

2021年 中国 120分  
監督:チャン・イーモウ
出演:チャン・イー

雪のハルピンでのスパイもの。 ★★★★

 

「初恋の来た道」のチャン・イーモウである。「HERO」、「LOVERS」チャン・イーモウである。その彼が撮った初めてのスパイ・サスペンスものである。
どんな美意識がサスペンスに絡んでいるのか。

 

舞台は1930年代の満州国(当時は日本の傀儡政権だったわけだが、政治的な背景などは映画ではほとんど出てこない)。
その満州国の首都ハルピンでのミッションをやり遂げようとする中国共産党のスパイ4人の物語。

 

冒頭に、その工作員4人が雪の森の中にパラシュート降下してくる。
夫婦と恋人同士の4人はそれぞれ分かれての2組となる。これは、どちらかの組が捕らえられたときに拷問に耐えて白状しないようにするため。
さらに4人は白い錠剤を一つずつ懐にしまう。これは自決用の毒薬。
観ている者は、スパイはかくも非情で、辛く、覚悟のいる任務だということを知らされる。

 

ウートラ作戦と名づけられた彼らの任務は、日本軍の秘密施設から脱走した同胞を国外へ逃がすというもの。
しかし、共産党員の裏切りによって彼らが潜入してくるという情報は特務科に知られていた。
特務科はスパイたちに協力者を装って接近していく。

 

ハルピンに向かう列車の中の場面も緊張感があった。
乗客にまぎれているスパイを捜し出そうと特務科も必死である。
スパイたちも行動をともにしている者の中に裏切り者がいることに気付き、仲間に知らせようと暗号をトイレに残したりする。
しかし特務科員はその暗号に気付き、書き換えてしまう。そのことを知らないスパイは・・・。

 

そうなのだ、スパイものなので誰が潜入者なのか、誰が裏切り者なのか、疑惑と策謀が交差する。
アクション場面、銃撃場面もあるのだが、エンタメ系スパイもので見られるような派手なものではなく、あくまでもリアル感がある。
スパイたちは、そしてそれを捕らえようとする特務隊も、ただただそれぞれのミッションを果たそうと必死に頑張る。
どちらの側にも観ていて辛くなってくるような切実さがある。

 

ハルピンは雪深い街。セット撮影のようだが、ロシア風の建物が好い感じである。
そこにはすべてを凍りつかせるような冷たさがある。人の心も凍てついてしまうような街の様である。
チャン・イーモウの撮る映像は美しい。そして雰囲気はひたすら暗い。

 

知らない俳優さんばかりだったので、顔の見分けがつきにくい。これが難点だった。
寒いのでみんな帽子を被っているし、みんな中国の人だし・・・。
(女性は見分けられるのだが、男性が、ね。苦笑)

 

一番若いスパイが小蘭(リウ・ハオツン)。毛の付いたフードと襟巻きの間から見える目が愛らしい。
彼女が街を見下ろす高台でリーダーに、作戦名の”ウートラ”て何ですか?と尋ねる。
リーダーが、ロシア語で”夜明け”という意味だと答える。
(この言葉を映画の最後に小蘭が言う、きっと夜明けは来ますよね。)

 

映画館のポスターを使った秘密連絡、そしてクライマックスとなるのが外国大使館で開かれるパーティの場面。
はたして作戦は成功するのか?
雪の中でのカーチェイス、銃撃戦は見応えがあった。

 

音楽は全体に哀愁に満ちたものになっていた。
特にエンドクレジット時に流れる主題曲は邦訳歌詞とも相まってしみじみとしたものだった。
邦題の”崖上”はなにを指しているのだろうと思ったが、原題が「懸崖之上」だった。
なるほど、そこに”スパイ”をつないだわけか。ちょっと工夫したわけだ。

 

派手なだけのスパイ・アクションものになっていないところは、さすがにチャン・イーモウ監督。
アクションや極秘ミッション、裏切りと策謀、そんなものが積め込まれながら、流れる音楽とも相まって、情感あふれる映画になっていました。