2021年 99分 オーストリア
監督:ステファン・ルツォビツキー
出演:ムラタン・ムスル、 リブ・リサ・フリース
ビジュアルに凝ったサスペンスもの。 ★★★☆
映画に描かれる時代は第1次世界大戦直後。
ロシアでの長い捕虜生活から解放された元刑事ペルクと戦友たちが祖国オ-ストリアへ戻ってくる。
しかしそこで彼らを待っていたのは、敗戦国となり変わり果てた祖国だった。
帰宅したペルクの家には誰も折らず、彼は荒廃した街で途方に暮れる。
この映画の特筆するべきことは、その絵柄である。
人物が動き回る背景の街並みや室内は、すべて異様に歪んでいるのである。
建物は傾き、遠近法は狂っており、キュビスムの画を思わせる。
幻想的な、まるで悪夢のような雰囲気の光景なのだが、この映画で描かれる人物たちの心理状態を反映しているようである。
本作はブルーバックで撮られたとのこと。そのためにどこか平面的な不自然さがあり、それも独特の効果となっている。
このビジュアルは大変に魅力的であった。
さて。
一緒に帰還したペルクの戦友が河原で遺体となって発見されるという事件が起きる
遺体には相手に苦痛を与えるためと思える19カ所の傷があった。
惨い殺し方だなあ(このあたりはかなりグロにも近い遺体映像が映る。気の弱い人は要注意)。
元優秀な刑事だったペトロは警察仲間と一緒に事件の真相を追い始める。
すると、やはり帰還兵の一人の惨殺死体が発見される。
今度は両手両足の指を1本だけ残して切り落とされていた。
犯人は19本の指を切り落としたということか。
次には籠に閉じこめられて19匹の鼠に食い殺された死体も見つかる(ここもかなりグロいよ)。
なぜ、19という数字にこだわっているのだ?
タイトルの「ヒンターラント」とは、内陸部、とか後背地といったドイツ語。
これが映画の物語とどのように結びついているのかは、正直なところよく分からなかった。
なにか異なる意味が隠されている?
物語には、ペルクの故郷へ戻っている妻子への思いが滲みでてきて、その妻と関係を持った元警察の同僚が登場したりもする。
その元同僚をペルクは殴打するのだが、彼はペルクを警察に復職させようと努力してくれたりもするのだ。本当は好い奴なのだ。
敗戦後の国は荒廃しており、人々の心も荒廃していたのだ。
(以下、後半のネタバレ)
やがて殺されていく被害者たちは、かつての収容所捕虜時代に逃亡を企てた20人を密告した”委員会”のメンバーだったことが分かる。
一人だけ生き残った者が、当時の”委員会”のメンバーに拷問死をした19人の復讐をしていたのだ。
最終近くになって、ペルクに隠されていたある秘密も明らかになる。
そしておびき出された廃屋でペルクは犯人と対峙する。
映画の最後は、事件が解決されてペルクが故郷の妻の元へ向かっている場面。
その映像はブルーバックのものではない自然の光景のもの。
ペルクもやっと現実に戻ってきた、この世界に生還したのだ、と思える映像だった。
サスペンスものとしても好い出来で、特異なビジュアル効果が物語の沈鬱さとよく合っていました。
ロカルノ国際映画祭で観客賞を受賞しています。