1954年 106分 アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:グレイス・ケリー
本格的倒叙もの。 ★★★☆
元花形テニス選手だったトニーは資産家のマーゴ(グレイス・ケリー)と結婚したのだが、夫婦仲は冷えており、マーゴは作家のマークと不倫をしていた。
そのことを知ったトニーは、マーゴを殺してその遺産を手に入れようと企てる。
さあ、自分に嫌疑がかからないようにして妻を亡き者にしなくては・・・
ヒッチコック監督はいろいろな作風で楽しませてくれたが、これはその中でも本格推理ものの筆頭だと思う。
倒叙もので、冒頭から犯人はわかっており、どのようにその犯罪が暴かれていくかという内容になっている。
トニーは、古い知り合いのレスゲートにマーゴの殺人を依頼しようと考える。
よし、あいつなら俺との関係を知っている者は居ないだろう。
(ちなみに、トニーが眺める古い友人たちとの集合写真の中にヒッチコック監督は写っていた)
殺人の実行時間には俺はパーティに出席して完璧なアリバイを作っておくぞ。
トニーが秘かにマットの下に置いておいた鍵を使って部屋に忍び込むレスゲート。
もう寝ているマーゴを寝室から居間におびき寄せるためにトニーは自宅に電話をする。
その時にレスゲートがマーゴを殺せば、自分のアリバイはパーティにいた全員が立証してくれるぞ。
ところがここで思わぬ展開に・・・。
レスゲートに襲われたマーゴが苦し紛れに手をのばした先に鋏があったのだ。
彼女はその鋏をつかみ、レスゲートの首筋に!
こうして襲われた者が加害者に、襲った者が被害者に。一瞬で立場が入れ替わる。
でも、これって当然マーゴは正当防衛だよね。
いやいや、腹黒いトニーはそんなことで諦めるような奴ではなかったのだ。
マーゴにははじめから殺意があったのだとでっち上げようとする。
おお、か弱いマーゴよ。辛い展開だね(でも、元はと言えば、浮気をしていたのはあんたなんだからね)。
映画タイトルに使われている”ダイヤルM”なのだが、それほど大きな意味は持っていなかった。
殺人の契機を作るためにトニーがマーゴに電話をかける場面があったぐらい。
(ある解説記事では、Mはマーゴとマークのイニシャルで、マーダー(殺人)の頭文字とのこと。原題も「殺人のためのダイヤルM」である)
”M”よりも大事な小道具だったのはアパートの部屋の鍵。
鍵はトニーとマーゴが一つずつ持っているだけなので、トニーの鍵を殺人を依頼したレスゲートに渡さなくてはならない。
死んだレスゲートが部屋の鍵を持っていたのでは怪しまれる。
そこでトニーはレスゲートの上着のポケットからこっそりと鍵をとりだし、マーゴの鞄にすべり込ませる。
やれやれ。
・・・しかしそれがトニーの命取りになっていくのだよ。
倒叙ものでは犯人を追い詰めていく名探偵が登場することが多い。
刑事コロンボや警部補・古畑任三郎が犯人の残したわずかな証拠を見つけて暴いていくわけだ。
本作ではその役回りは警部だった。切れ者だったね。
さすがにヒッチコック。物語の展開に全く緩むところがない。
ヒッチコックの本格推理的なサスペンスものの中では一番の傑作ではないだろうか。
1998年にマイケル・ダグラスとグウィネス・バルトローでリメイクされたのが「ダイヤルM」(もうプッシュホン形式になっていたのでダイヤルは廻さないのだよ)。
犯人の設定を大幅に変更したりして、これもなかなかに楽しめるものになっていた。