1970年 フランス
監督:ルネ・クレマン
出演:チャールズ・ブロンソン、 マルレーヌ・ジョベール、 ジル・アイアランド
本格サスペンスもの。 ★★★★☆
ルネ・クレマン監督である。音楽はフランシス・レイである。そしてチャールズ・ブロンソンである。
70年代のフランスものミステリー映画の傑作の一つであるだろう。
なんといっても映画全体に流れている情感がすばらしい。
舞台は南フランス。
雨の日にやって来た不審な男に襲われたメリー(マルレーヌ・ジョベール)は、銃で男を撃ち殺してしまう。
死体を隠したつもりだったのだが、友人の結婚式場にあらわれたドプス(チャールズ・ブロンソン)と名乗る男が、執拗につきまといはじめる。
どうする、ラブ・ラブ?
(ラブ・ラブというのは、メリーが着ていたTシャツに書かれていたロゴ。そこからドプスがその愛称でメリーを呼ぶのだ。)
脚本はセバスチャン・ジャプリソ。
同じ彼の脚本の「さらば友よ」でのブロンソンが気に入り、彼のために書いた物語とのこと。
ジャプリソといえば、有名なのは小説「シンデレラの罠」。
この本の惹き文句は、”私は犯人で、被害者で、探偵で、目撃者です。いったい私は誰でしょう?”といったものだった。
その後、衝撃だったこの小説の亜流がいくつも書かれたが、ジャプリソのあれは、すばらしく目の眩む小説だった。
雨の中をやって来た謎の男の正体は? 彼が持っていた赤いバッグの中身は? そしてドプスとは何者なのか?
推理ものとしても、ジャプリソらしく、観ているものを混乱させる仕掛けがあったりもする。
しかし、この映画の最大の魅力は事件の謎解きではなく、その事件を中にしたメリーとドプスの掛け合いである。
メリーにしつこくつきまとい、ウイスキーを飲むことを強要する奇妙な拷問(?)までするドプスだが、観ている者も次第に彼に惹かれていく。
それになんと言っても、メリーの人物像が大きな魅力となっている。
メリーは、幼い頃に目撃した母の情事を告げたことによって父が不在になってしまった、というトラウマを抱えている。
その頃の少女の無防備な、そして脆い部分を抱えたまま大人になっている。
メリーの、そんな柔らかく小さい少女から脱し切れていない危うさが、映画の雰囲気を深みのあるものにしていた。
(ちなみに、マルレーヌ・ジョベールは、ボンド・ガールにもなったエヴァ・グリーンの母親である)
メリーの本名は、いなくなった父がつけてくれたメランコリー・モー。
気丈な母は、長い間その父がつけた名前で呼ぶことはなかったのだが、疲れきったメリーを母ははじめてメランコリーと呼ぶ。
そばかすだらけの泣き出しそうな顔で、母がメランコリーと呼んでくれたといって喜ぶメリーが愛おしかった。
フランシス・レイの音楽は雨の場面で流れる主題曲もいいが、結婚式の場面でのワルツも美しい。
レイの映画音楽は「白い恋人たち」や「男と女」「ある愛の詩」「個人教授」などいいものが多いが、この映画の音楽が個人的にはベストである。
あちらこちらの小道具も効いている。
「さらば友よ」では、ブロンソンは、ウイスキーを縁まで満たしたコップに、溢れささずにコインを入れることができるかどうかといった賭をしていた。
この映画では窓ガラスに向かってクルミを投げ、ガラスが割れるかどうかという占いをしている。
映画の最後で、ドプスが何気なく投げたクルミで窓ガラスが割れる。ここは好いなあ。
それまでの伏線があるので、思わずにやりとしてしまう。
陰惨な事件も起きるのだが、映画の雰囲気は、どこかに哀愁を漂わせながらも(メリーの人物像ね)、明るく軽い。
タイトルは「雨の・・・」だが、雨は冒頭に降るだけで、あとは南フランスの日差しがまぶしく照りつけている。
雰囲気を楽しむサスペンス映画です。