1993年 フランス 84分
監督:ジャン・リュック・ゴダール
出演:ジェラール・ドバルデュー、 ロランス・マスリア
絵が美しい難解映画。 ★★★☆
1990年代のゴダールの映画は、一時は熱病のようにあふれていた政治色がなくなり、ふたたび芸術性の高いものとなっている。
その中でも本作は映像の美しさが秀でている。ただし、物語はよく判らない・・・。
舞台はスイスのレマン湖ほとり。美しい風景である。
そんな地で一晩家を留守にして帰宅した夫はまるで別人のような感じがするのだ。
疑惑を口にする妻に夫は、私はあなたの夫の身体に乗り移った神なのだ、と宣言する。
えっ? なに、それ?
そしておこなわれた夫婦生活はこれまでのものとはまったく違う愉悦のものだったのだ。
と書くとまるで際物のようなことになってしまうが、ゴダールのことなのでそんなものではない。
これは、ゼウス神が美しい人妻に目を付け情欲に及んだというギリシャ神話をモチーフにしているとのこと。
(ギリシャ神話の神さまたちって、自分の欲望のままにやりたい放題なんだよね。これのどこが神さまなのだろう?)
それはともかく、明るいリゾート地の風景の中でゴダールは訳の分からない問いかけをしてくる。
物語の意味はまったく分からなかった。しかしとにかく映像が美しいのである。
冒頭で映る田舎の道路からして美しい構図である。
体格の良い男が道を奥に歩いて行く、また、奥から歩いて来るショット。
何かを探っている探偵なのか、取材をしている編集者なのか、曖昧。
いろいろな名前を同時に呼ぶ声が重なる。誰が誰を呼んでいるのかもよくわからない。
湖を大きな遊覧船がゆっくりと進み、それに合わせて画面も右から左へ動いていく。なんとも素晴らしいショットである。
あるいは、湖の側の公園で歩く人を左から右へ横移動して見せる、後には遊覧船も見えている。これも音楽を思わせるような美しいショットである。
ゴダールらしく、この映画でも何かの書物からの引用と哲学的なアフォリズムが夥しく放り込まれている。
もう観ているこちらも字幕を目では追っているのだが意味を捉える努力は放棄している(苦笑)。
それにしてもこの映画で扱われている”神”とは何なのだろう。
無神論、それとも神について考えの放棄、なのか?
原題は「なんということだ!」といったようなことらしい。
それでこの邦題? どこから”決別”なんていう語を引っぱってきたのだろう?
後半にくり返しあらわれる花の生えた丘から道路を撮ったショット。
何でもない絵柄なのだが、なぜか物語を孕んでいるように思えてしまう。不思議。
そう、これはそう言う映画なのだ。
意味を考えながら鑑賞することはお勧めしません。ただただ映し出される映画の美しさを味わいましょう。