あきりんの映画生活

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「ラスト・エンペラー」 (1987年) 政情に翻弄された清朝最後の皇帝

1987年 163分 イタリア・イギリス・中国合作 
監督:ベルナルド・ベルトリッチ
出演:ジョン・ローン, ピーター・オトゥール

歴史大作。 ★★★★

 

映画は1950年のハルピンから始まる。
ソ連での抑留生活から帰国してきた大勢の中国人戦犯の中に、清朝最後の皇帝・溥儀(ジョン・ローン)もいた。
彼はトイレで手首を切って自殺を図るが、駆けつけた役人によって一命をとりとめる。
そこから彼の波乱に満ちた自分の半生の回顧といった感じで物語が展開する。

 

溥儀の自伝「わが半生」を原作にしているとのこと。
そのためにやや自己弁護的に思える部分もあったが、それは致し方ないだろう。
とにかく大変な生涯であったことは間違いない。

 

1908年に西太后による清朝皇帝指名を受けて溥儀は紫禁城に入る。
このとき溥儀は3歳。もちろん何も判らず、周りの大人たちが皇帝として扱うままにされる。
紫禁城の外の世界から隔絶された日々。形式、様式、そんなものの中で育っていったわけだ。

 

映画は溥儀の半生を追いながら、所々で第二次世界大戦後に建国された中華人民共和国での「戦犯」収容所での尋問場面が入る。
若干ややこしくも感じるが、この手の映画でときおり感じられる単調さ、冗長さをなくしていて、うまい構成だった。

 

やがて成長してきた溥儀は紫禁城の外の世界では大総統袁世凱が権力を握っていることを知らされる。
なに? 自分はこの世で一番偉いのではなかったか?
紫禁城の外の道を大統領を乗せた車列が行く。それを高い城壁の上から溥儀が信じられないといった様相で見る場面は印象的だった。
それまで育ってきた世界が、自分が思っていたものとはまったく違っていたことに愕然としたのではないだろうか。

 

そして1924年の北京政変で、溥儀ら一族は紫禁城を追われる。
幼い頃からの特権的な生活も失われてしまう。まさか自分がこんな目に遭うなんて・・・。
家庭教師をしていたイギリス人ジョンストン(ピーター・オトゥール)の伝手でイギリス大使館に庇護を求めるが拒否される。
彼に援助の手を差し伸べてきたのが大日本帝国だったわけだ。

 

日本の思惑にのせられて、1934年に溥儀はついに満洲国皇帝となる。
大変に危うい立場に立たされて、日本に利用されていたわけだが、溥儀自身も日本を利用しようとしていたのだろう。

 

ここで登場してくる甘粕大尉(坂本龍一)は謎めいた人物。
満州国にまつわるいろいろな策謀に荷担、いや主導していたようだ。
そしてもう一人の謎めいた人物が川島芳子
彼女は溥儀の遠縁であったとのことだが、手練れの女スパイといった感じだった。
芳子は溥儀の妻である婉容にアヘンを勧め、ついには廃人にしてしまう。なにか恐ろしい人物であった。

 

1945年8月15日、日本の敗戦により、満洲国は滅亡する。
溥儀は捕らえられソ連に抑留される。皇帝だった身が一転して罪人の扱いを受けるわけだ。
これだけでもすごい境遇の変化である。
持ちあげられたかと思えば、奈落に突き落とされる。一生の間にこれほど境遇が変化した人物も希だろう。

 

歴史物大作の名に恥じない溥儀の半生記だった。
彼は文化大革命のさなかの1967年に一市民として死去する。
歴史が大きく揺れていたときに溥儀の立場を利用しようとした力と、溥儀自身も抱えていた皇帝という座への欲望とが絡み合って、こんな人生になってしまったのだろう。

 

最後、老いた溥儀は幼い頃に紫禁城の皇帝の玉座の隅に隠したコオロギの壷を出会った少年に手渡す。
彼の波乱の人生の始まりを振りかえるようで、余韻に満ちたラストだった。
アカデミー賞では作品賞など9部門で受賞している。坂本龍一も日本人で初めての作曲賞をとっています。