あきりんの映画生活

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「菊豆」 (1990年) 色彩美あふれたどろどろ愛憎劇

1990年 94分 中国・日本合作 
監督:チャン・イーモウ
出演:コン・リー、 リー・パオティエン

薄幸のコン・リー? ★★★★

 

デビュー作「紅いコーリャン」で一躍注目を集めたチャン・イーモウ監督。
前作同様に中国の農村を舞台に、ひとりの女性のたどる運命を色彩豊かに描いている。
主役はひき続きコン・リー

 

1920年代の中国、金で買われるかたちで染物屋に嫁いだ菊豆(コン・リー)。(おお、「紅いコーリャン」と同じ設定だ)
その主人は前妻ふたりを虐待し殺してしまったようなDV野郎だったのだ。
菊豆も毎晩の折檻で生傷だらけになっていたのだ。

 

そりゃ可憐で儚げな風情のコン・リーがそんな目にあっているのだから、観ている者はみんな同情している。
彼女がどんな復讐をしても、みんな応援する気持ちになってしまうぞ。

 

この染物屋には横暴な主人にこき使われている甥の天青(リー・パオティエン)が同居していた。
秘かに菊豆に惹かれていた彼は、秘かに彼女を助け、やがて秘かな不倫関係に落ちていく。
やがて菊豆は天青の子を身ごもる。
しかし不倫など許されるはずもないこの時代である。菊豆は主人の子として出産する。
DV夫はどうやら男性不妊症だったようだ。それもあって、跡取りの欲しい彼は苛立ってDV野郎になっていたようなのだ。

 

物語の舞台は染物屋なので、真紅や黄色など鮮やかな色に染められた長い布が画面を彩る。
高い天井から吊り下げられて干される色とりどりの布がゆるやかに揺れ、幻想的な光景を作りだしていた。
前作以上に色彩美に溢れた映像である。チャン・イーモウ監督の本領がいよいよ発揮されてきている。

 

さて。ある日、主人が脳卒中で倒れてしまう。半身不随になってしまう!
おお、これは、これは。思ってもいなかったような形勢の逆転ではないか!
こうなりゃもうこっちのもんよと、菊豆と天青は思う存分に二人の生活を楽しむ。

 

そしてこれまでの鬱憤を晴らすように主人をいたぶったりもするのだ。
おお、コン・リーも聖女じゃなかったのだね、結構な悪女だったのだね。

 

映像美に溢れた本作だが、物語はどんどんと泥沼化していく。
菊豆は動けない主人に、この子はお前の子じゃないんだよ、天青の子なんだよ、ざまあみろ、と告げる。
おのれ、お前はそんな女だったのか! 不自由な身体で歯軋りする主人。
そんな主人はそれでもその子を可愛がり続け、その子も主人を実の父親だと思い込んで育っていく。

 

さらに菊豆は天青の二人目の子を身籠る。もう主人の子だと世間に偽ることもできない。
不倫を公に知られてはまずい、どうする・・・。

 

最後は色とりどりの布が絡み合う場での悲劇となっていく。
すごいなあ。
個人的には前作「紅いコーリャン」を凌ぐ傑作だと思った。

 

チャン・イーモウ監督は当時の恋人だったコン・リーを起用してこの後も次々と傑作映画を撮った。
二人のコンビの映画は1995年の「上海ルージュ」まで続き、そこで途切れる。
その後、今度は新しいミューズのチャン・ツィイーを起用してあの傑作「初恋の来た道」を撮るわけだ。

 

約30年後の2014年、イーモウ監督は「妻への家路」で再びコン・リーを老いた妻として起用している。
映画監督にはそれぞれのミューズが居て、そのミューズのおかげで発揮できる才能もあるのだろうな。