
2024年 133分 フランス
監督:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、 カルラ・ソフィア・ガスコン、 セレーナ・ゴメス
トランスジェンダーの人間ドラマ。 ★★★★
いろいろなところで話題になった映画なので、おおよその粗筋はみんな承知していると思う。
強面の元麻薬王がトランスジェンダーだったという、ずいぶんなぶっ飛んだ話である。
それをぐいぐいと迫ってくる物語展開で見せてくれる。すごいね。
舞台はメキシコ。勝手な想像なのだが、賑やかで暑苦しくて脳天気でそれでいてみんなが貧しそう。
メキシコと聞いて想像するのはこんなところ(失礼だったかな)。
そのメキシコで弁護士をしているリタ(ゾーイ・サルダナ)はある日、麻薬カルテルの大ボスであるマニタス(カルラ・ソフィア・ガスコン)から信じられないような依頼を受ける。
女性になりたい、女性としての新たな人生を用意してほしい。金はいくらでも用意する。
えっ?
ということで、リタは、マニタスが性別適合手術を受けて過去を捨てる計画を立てる。
この映画は途中で出演者が歌い始めたりもする。
しかし、いわゆるミュージカル映画とはまったく異なる雰囲気であった。歌が物語の台詞の一部に組み込まれている。
だから歌い始められてもほとんど違和感がない。
私はいわゆるミュージカルは苦手なのだが、これはまったく大丈夫だった。これは新しい感じではないかい。
マニタスが姿を消して数年後、イギリスで新たな人生を歩んでいたリタの前に、エミリア・ペレスという女性があらわれる。
それは女性として生きはじめていたマニタスだった。
彼は(彼女は)残してきた妻と子ども達と一緒に生活したい、なんとか段取りしてくれ、とリタに依頼する。
エミリア・ペレスという人物のキャラクターが独創的。
演じるカルラ・ソフィア・ガスコンの変身ぶりも見事で、エミリアとマニタスが同一人物だとは、見ている者も感心するほど。
ガスコンは実際にもトランスジェンダーの俳優ということである。へぇ~。
エミリアは死んだマニタス(!)の叔母と名乗り、元・妻や子供たちを引き取り一緒に暮らしはじめる。
そして孤児の救援活動を熱心にはじめる。
(実際のところは、麻薬王だったあんたのせいで孤児になった子も多かったんじゃないの? でも、今はそれは言わないでおこう・・・。)
という風に善意の人となったエミリアだったのだが、思わぬ誤解からの悲劇がやってくる。
この後の展開も充分にエンタメ性を残していて、最後まで惹きつけてくれた。
映画の最後は、賑やかだけれどもどこか哀愁に満ちた葬列の場面。
この場面の音楽も好かった。
そう、この映画には、猥雑で騒ぎまくっているのだけれども、その反面にある生きにくさを感じている人間の哀しみが漂っていた。
カンヌ映画祭では審査員賞と4人の俳優が女優賞を受賞している(カルラ・ソフィア・ガスコンは、カンヌ映画祭でトランスジェンダー俳優として初の女優賞を受賞した)。
アカデミー賞では作品賞など12部門でノミネートされていたのだが、ガスコンの過去の発言が問題視されてしまった。
その結果、ゾーイ・サルダナの助演女優賞と主題歌賞の2部門受賞に終わっている。
「アノーラ」も充分によかったけれど、こちらがアカデミー作品賞でもよかった気もするなあ。