あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「裸のランチ」 (1991年) 魅力的な悪夢のような不可思議世界

1991年 115分 イギリス・カナダ合作
監督:デビッド・クローネンバーグ
出演:ピーター・ウェラー、 ジュディ・デイビス、 イアン・ホルム

幻想世界のてんやわんや。 ★★★★☆

 

すごい映画を観てしまった。
映像化が不可能と言われていたウィリアム・S・バロウズの同名小説を映画化したもの。
脳内映像を悪夢のように捉えて、なんとも魅力的な映像作品に仕上げていた。

 

舞台は1950年代のニューヨーク。退廃的な雰囲気が全体を覆っている。
(しかし、映画が進むにつれて、そんな生やさしいものではなくなってくるのだが)
作家志望だが今はしがない害虫駆除員をしているウィリアム(ピーター・ウェラー)。
彼の妻ジョーンは、彼が仕事で使っている駆除薬をドラッグ代わりにしていた。
それを知ったウィリアムも駆除薬に溺れるようになり、ゲームのはずみでジョーンを射殺してしまう。

 

驚くべきことに、原作者バロウズも実際に妻を射殺しているとのこと。
そしてその妻の名前もジョーンだったとのこと。
生々しい悪夢のような実話から生みだされている物語なのだ、これは。

 

クローネンバーグ監督なので、奇妙でヌメッとした生き物があらわれる。
冒頭からウィリアムの前には上司だと名乗る巨大なゴキブリがあらわれたりしていた。
ゴキブリは、妻のジョーンはインターゾーン商会の回し者だから殺せ、と命令したりする。
ウィリアムはそのゴキブリを叩き潰して帰宅していたのだ。

 

薬物中毒を治そうとウィリアムが訪ねたベンウェイ医師は、治療薬と称して麻薬を渡したりする。
そして妻を射殺してしまったウィリアムは酒場でマグワンプという異形の怪物に会う。
マグワンプからは、北アフリカにあるインターゾーン商会へ逃亡しろ、とチケットを渡される。
ただし渡されたタイプライターで報告書を書くことが条件だった。

 

このタイプライターの造形が素晴らしい。
タイプライターはウィリアムが叩きつぶしたゴキブリと融合していたのだ。
背中の黒光りする羽根の下にはお尻のような(あるいは女性性器のような)大きな口があり、不可解な指令を伝えてきたりするのだ。

 

ロッコを思わせる風景のインターゾーン市。
そこに逃れて報告書をタイピングするウィリアムの世界はめまぐるしく揺れうごく

 

ジョーンと瓜二つの女性があらわれ、その夫トムは妻を殺したいとウィリアムに相談してくる。
そのトムの家にはインターゾーン商会の若者たちが出入りしており、その秘密を探ろうとするウィリアム。
ジョーンに似たトムの妻にアラビア語のタイプライターを打たせると、タイプライターは生き物に変形したりする。
その生き物を窓から追い落とす家政婦のファデラ(彼女は何者?)。
ウィリアムが書いているのが処女小説「裸のランチ」であり、出版社が完成を待っているのだと聞かされる。本当か?

 

鍛冶屋の炉で溶かされたタイプライターはマグワンプ型に再生する。
ベンウェイ医師こそがインターゾーンの黒幕だとマグワンプから告げられるウィリアム。
実は家政婦のファデラとベンウェイ医師は親しい仲で、ウィリアムが二人を追って古い工場に潜入すると、彼らはマグワンプたちの触角から出る麻薬を搾り取っていたりする。

 

すごいね。
最後に警備員に作家である証明をみせろと言われたウィリアムは、ジョーンに瓜二つの女性をまた射殺する。
そして、これで君は小説家になれたのだと認められるのである。
ぶっとんだ監督の脳内世界である。
音楽はフリー・ジャズの巨匠オーネット・コールマンで、この映画にぴったりと合っていた。

 

理屈などどこにもない。
悪夢世界だから、そんなものからは解き放たれているのだ。
さあ、バロウズとクローネンバーグの作り上げた世界に、何も考えずに陶酔しよう!