
2021年 178分 ドイツ
監督:ドミニク・グラフ
出演:トム・シリング、 サスキア・ローゼンタール
大戦前夜の青年のさまよい。 ★★★☆
原作はエーリッヒ・ケストナーの大人向け長編小説「ファビアン あるモラリストの物語」(未読)。映画原題もただ「ファビアン」。
青年ファビアンが、ファシズムの足音が聞こえ始めているベルリンの街で、自分の生き方を探す物語だった。
舞台は1931年のベルリン。
一次大戦後のドイツ社会には疲弊と退廃の気分があり、それがナチスの台頭につながっていく。
そして世界恐慌の2年後であり、不景気が続いている。
失業者も多く、タバコを1本だけ買う人がいたり、他人が吸っているタバコをすれ違いざまに奪う人もいる。そういう時代。
そんなベルリンの街で、作家志望のファビアン(トム・シリング)は、無為な日々を過ごしていた。
彼は女優を夢見るコルネリアと恋に落ちる。
唯一の親友であるラブーデは裕福なのだが政治的な信条もあってやがて破滅していく。
主役のトム・シリングは初めて観たと思うのだが、若い頃のジャン・ピエール・レオに似ていると思うのは私だけだろうか。
好みの雰囲気である。
ファビアンを取り巻く世界が大きく変わっていく予感と不安がある毎日。
ところどころで当時の白黒映像が挟み込まれる。
ナチスの台頭がベルリンの街を覆い尽くそうとしているのだった。
彼はそんな世界で何をするべきなのか、どこへ向かうべきなのか、惑っている。
レストランから追い出される貧しい身なりの浮浪者を、僕の知り合いだといってテーブ
ルに呼ぶファビアン。
お金に困るようになった彼はタクシーから降りる人の手助けをしてチップをもらったりもする。
久しぶりに母と会ったファビアン。
別れのハグをするときに、彼は母のバッグにこっそりとお金を入れる。
そのあとに見ると、彼のポケットには母がこっそりと入れたお金が入っていたのだ。
互いを気遣うシーンが美しい。
やがてコルネリアは女優の夢をかなえるためファビアンのもとを離れていく……。
(以下、最後顛末のネタバレ)
河でながされていく少年を見たファビアンは、自分が泳げないことも忘れて助けようとする。
そして死んでしまう。
必死に生きることにもがいていた彼が、そういう顛末で命を落とすなんて・・・。
それが彼の生き様だったのだと思わされる。
約3時間の長い映画である。しかしまったく退屈することはない。
ファビアンの、とりとめがないような、しかし必死で切実な思いが行動が、ああ、そうなのか、と思わせるのだ。
好い映画を観たという気持ちになった。