
2025年 162分 アメリカ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、 ショーン・ペン、 チェイス・インフィニティ、
ベニチオ・デル・トロ
駄目親父が娘のために頑張る。 ★★★☆
ポール・トーマス・アンダーソン監督は6本の映画を撮った段階でベルリン、カンヌ、ベネチアの3大映画祭での受賞を果たしてしまった。すごい才能である。
そんな彼が描くのは、冴えない元革命家の男が娘を守るために奮闘する物語。
映画は大きく二つのパートに分かれている。
前半は、左翼過激派集団のペルフィディア(タヤナ・テイラー)と爆破担当のボブ(レオナルド・ディカプリオ)らの活動を追っている。
メキシコ国境近くの移民収容所を襲撃して移民を解放したりする様子が描かれる。
ペルフィディアは政治的にも性的にも、まあ、ぶっ飛んだ女性。
治安部隊のロックジョー(ショーン・ペン)を拘束して辱めたかと思うと(かなり下ネタ風である)、ボブを激しく求めたりもする。
出産間近の大きなおなかでマシンガンを腰だめにしてぶっ放す場面は見事な絵柄だった。
出産を終えて再び革命運動に舞い戻ったペルフィディアはロックジョーに捕らえられてしまう。
釈放の交換条件として、彼女はあっさりと組織を裏切り、そして娘も置いて姿を消してしまう。
組織は壊滅状態となり、ボブも娘のウィラを育てるために逃げ続ける。
めまぐるしく情勢は動き、登場人物はみんな一癖も二癖もあって、容易に感情移入などさせてくれない。
移民排斥や人工中絶禁止、そして白人至上主義など、今の社会が抱えている問題を戯画的に取り上げ、そのうえで問題提起もしているよう。
そのあたりの感覚がこの映画に深みを与えている。ただのエンタメ映画で終わってはいない。
後半は16年後の物語。
権力を求めるロックジョーはウィラ(チェイス・インフィニティ)の行方を探っていた。
性的に奔放だったペルフィディアだったので、ウィラの父親がボブなのか、それともロックジョーなのか、判らないのだ。
ロックジョーには、ウィラが自分の娘では困るある事情があったのだ。もしそうならウィラを亡き者にしなければ・・・。
一方のボブは長い潜伏生活の間に酒とドラッグに溺れ、すっかり駄目人間。
一緒に暮らすウィラにも匙を投げられかけている情けない状態。
そんな2人にロックジョーの手が伸びてくる。なんとしてもウィラを護らなければ。
やさぐれ駄目親父をディカプリオが好演。さすが。
しかしそれ以上に存在感があったのはロックジョー役のショーン・ペン。すごいね。
ロックジョーの追求から逃れようとする二人を助けてくれるのが、ウィラの空手の”センセイ”(ベニチオ・デル・トロ)。
無愛想なようでいて、人なつこい笑顔も見せる。頼りになるなあ。
いつ観てもデル・トロは好いね。ご贔屓である。
こうして手段を選ばない権力の持ち主のロックジョーと、潜んでいた革命組織の助けを借りて逃げ続けるボブとウィラ。
なりふり構わずにただ娘を護ろうとする父親の姿を、それこそなりふり構わない無骨な感じで描いている。
そこにきれい事にしてしまわない迫力があった。
終盤に3台の車の追跡場面がある。
広大な畑の中をつらぬく激しいアップダウンが延々と続くまっすぐな一本道である。
カメラ位置は路面ギリギリで、アップダウンのたびに車が見え隠れする。
ただそれだけの映像なのだが、大変に緊迫感があった。すごい才能だな。
波瀾万丈のエンタメ映画なのだが、ずしんとした手触りもあって、これだけの長尺を惹きつけてくれた。
これは今年の賞レースに絡んでくる映画ではないだろうか。