
2024年 103分 フランス
監督:エマニュエル・クールコル
出演:バンジャマン・ラべルネ、 ピエール・ロタン
生き別れていた兄弟の物語。 ★★★☆
世界的な指揮者であるティボ(バンジャマン・ラベルネ)は、ある日、白血病と診断されてしまう。えっ。
骨髄移植をするためのドナーを探していると、なんと当てにしていた妹とは血縁関係でないことが判る。えっ!
今まで隠していてごめんね、ティボ、あなたは3歳の時にもらってきた養子なのよ。
ということで、ティポには生き別れた弟のジミー(ピエール・ロダン)がいることも判る。
そのジミーは炭鉱町の食堂で働いていた。そして仲間と結成した素人の吹奏楽団活動を楽しみに暮らしていた。
こうして育った環境も性格もまったく異なるティボとジミー兄弟の物語が始まる。
ティボはいかにも上品な知的階級の人という感じ。しかし奢ったようなところはみじんもない。
一方のジミーはちょっと粗野でぶっきらぼう。いかにも労働者という感じなのだが、とてもお人好し。
初めて会った兄弟はすぐにうちとけて、ジミーからの骨髄移植も成功する。
このあたりはあっさりと描かれる。ティボの状態も安定する。よかった、よかった。
基本的に悪人は一人も出てこない人情味溢れるお話なのである。
ただ社会情勢の不安でジミーの生活が荒れたり、素人吹奏楽団の指揮者が不在になってしまったりするのだ。
ティボは指揮者養成の仕事もしていたようなのだが(何しろ世界的な指揮者だからね)、ジミーに指揮のやり方を指導する。
ジミーは素人楽団の指揮者になり、ティボの勧めで楽団は「ボレロ」を練習したりする。
ジミーの所属する素人吹奏楽団は、実際に活動している炭鉱労働者楽団のメンバーが演じたとのこと。
これも好い裏話だな。
こうしてティボとジミーの兄弟愛が紡がれていく。
しかし、せっかくおこなったティボの骨髄移植に拒絶反応が出て来て、彼の体調は次第に悪化してくるのだ。
何とか元気なうちにと、ティボは新曲の作曲に打ち込む。
(以下、ラストのネタバレ)
病が重くなってきたティボが渾身の新曲のオーケストラ曲をを発表する。満員の聴衆である。
その演奏が終わったとき、客席の最上部からタンタタタタン・タンタタタタンというスティックの音が聞こえはじめる。
そして「ボレロ」のメロディーの合唱が次第に大きく聞こえてくる。それはあのジミーの吹奏楽団のメンバーの歌声だったのだ。
やがて舞台のオーケストラのメンバーが「ボレロ」を奏で始め、やがて会場の全員が「ボレロ」を歌い始めるのである。
この曲は最高潮になったところで不意に終わる。映画もそこで終わっていく。
よけいなものは何も加わっていない感動的なエンディングだった。
しかし、二人が置かれた状況は、客観的に考えると決してハッピーではない。
ティボの病は回復の見込みはなく、ジミーの工場は倒産したままである。
二人の人生は映画が終わったあとどうなるのだろうと思ってしまう。
盛り上がった感動の陰に一抹の苦いものが残っているのだった。
そんなことも含めて、それでも好い映画でした。お勧めです。