2006年 スペイン 120分
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス、 カルメン・マウラ
女の悲しみを、しかし力強く描く。 ★★★☆
ライムンダ(ペネロペ・クルス)は、失業した夫と15歳の一人娘パウラと暮らしている。
彼女は明るくたくましく働き、家庭を支えている。
姉や年老いた伯母さん、亡くなった母の友人との気の置かないつき合いのある日常である。
ライムンダの母は、父と一緒に火事で亡くなっていたのだった。
とにかくペネロペ・クルスが華やかに美しい。黒と赤がきわだつような、原色の美しさ。
冒頭に、風の強い日に墓地の掃除をするライムンダたちの様子が描かれる。
スペインの風土を感じさせる印象的な場面であった。
そして、この作品では亡くなった人の存在が、生き残っている人たちに与えている影が、大きな意味を持っていた。
そんな意味からも、強い風の吹く墓地は象徴的なオープニングであった。
(以下、あらすじに触れています。ご注意ください。)
普通の人々の、普通の日常が描かれていくようにみえて、映画はいきなりサスペンス的な展開を見せる。
ある日、夫が娘パウラに、お前は俺の実の娘ではないと言って関係を迫り、抵抗したパウラに刺し殺されてしまう。
ありゃ、なんということだ。
おまけに、亡くなったと思われていたライムンダの母(カルメン・マウラ)も、実は生きていて、ある日姿を見せる。
ありゃ、なんということだ。
こんな非日常的な出来事に直面しても、ライムンダはたくましい。
取り乱すこともなく、冷静に事を運んでいく。娘が殺してしまった夫の死体をこっそりと埋めて隠してしまったりもする。
一見華奢にみえるペネロペがそんなたくましい女を演じるのだから、これはもう、すごい迫力である。妖艶といってもいいぐらい。
(たとえば、かってのソフィア・ローレンあたりが演じれば、いかにも、たくましい女と言うイメージではまりすぎになるのだろうけれども)
そんなたくましいライムンダ自身にも大きな秘密があったのだ。
その秘密を抱えて生きてきたからこそ、ライムンダはたくましくならざるを得なかったのかもしれない。
そして、その秘密が明らかになってお互いの思いが理解し合えたときに、ライムンダは母のもとへ帰ることができたのだし、母も娘のもとへ帰れたのだろう。
仲違いをして離れていた娘が、再び自分の故郷ともいうべき母のもとへもう一度帰る、そんな意味での「帰郷」だったのだろう。
ライムンダがレストランで「帰郷」という歌を唄う場面があるが、この歌がとても良かった。
(ペナロペが本当に唄っている? そうだとすると、ペネロペはかなり歌が上手い)
すさまじい内容の展開だが、ユーモア感覚も適度にあって、堅苦しくはならずに観ることができる。
落ち込んでいる暇なんかはないぞ。前向きに。