1974年 フランス 185分
監督:ジャック・リヴェット
出演」ジュリエット・ベルト、 ドミニク・ラブリエ
★★★★☆
一言で感想を言うとしたら、”いやあ、すごい映画を観てしまった”。
ジャック・リヴェットはJ.L.ゴダールやトリュフォーほど日本では知られていませんが、ヌーベル・バーグの一翼を担った人です。
彼の「北の橋」も良かったので、この映画も早く観たいとは思っていました。
しかし、この映画、なんと195分もあります。観ようと思うと、やはりそれなりの気合いがいります。
パリの公園のベンチで魔術の本を読んでいたジュリー(ドミニク・ラブリエ)の前を、セリーヌ(ジュリエット・ベルト)が通り掛かり、サングラスとスカーフを落としていきます。それを拾って後を追うジュリー。
この導入部は、あの「不思議の国のアリス」で、アリスが白ウサギの後を追いかけて穴に落ちていく部分をもじっているのでしょう。
お互いがお互いを意識するような二人の奇妙な追いかけっこがあったあと、やがて二人は共同生活をはじめます。
セリーヌはジュリーの代わりに恋人に会いに行き、破局させます。ジュリーはセリーヌの代わりに手品師の舞台に立ったりします。
正直に言って、始めの1時間は冗長な感じが否めません。まともな映画を観たいと思う人だったら、なんのためにこの1時間があるのだと思うかもしれません。
しかし、独特の雰囲気を持ったこの冗長さがリヴェットなのです。
行き当たりばったりのようで、それでいて絵になるような画面が延々と続きます(これは「北の橋」でも似たような印象でした)。
映画は後半に入り、俄然面白みが増してきます。迷路の世界が展開されはじめます。
キャンデーを舐めた二人は、古い館の幻視の世界に入り込みます。
そこでは妻に先立たれた男をめぐって二人の女(妻の姉と妻の友人)が争っています。そして再婚の邪魔になる男の幼い娘を、誰かが毒殺しようとしています。
幻視の世界はなんどもフラッシュ・バックされて、隠されていた画面の意味が次第に分かるような仕組みになっています。
まるで観ているほうも眩暈がしてきそうな、そんな魅力に富んだ展開となってきます。
物語の世界に外部から入り込んだ二人だから、二人は物語を超越していたりもします。
台詞を忘れちゃった、とか、ポケットに入れた水筒の中身を一口飲んで、なんで砂糖抜きの紅茶なの、と文句を言ったり。
このあたりはゴダールの初期の映画などにも通じるところがあって、虚構の映画というもの自体を映画であらわしているとも言えます。
セリーヌとジュリーは少女を救い出して、舟で湖を渡っていきます。
そしてエンディング。今度はセリーヌがベンチに座っていると、ジュリーがあの魔術の本を落として通りすぎます。慌てて本を拾い上げてジュリーの後を追うセリーヌ。
長い作品ですが、一度見はじめると、その長さをまったく感じさせません。傑作です。
日本の監督で言えば、鈴木清順が一番近いかもしれません(清順の場合は、歌舞伎などの様式美へのこだわりも強いですが)。
一応、リヴェットの映画だという覚悟をして観はじめる方がよいでしょう。