2007年 日本 110分
出演:小泉京子、 松尾スズキ、 などなど
10人の監督によるオムニバス。 ★★★★
10話からなる夏目漱石の「夢十夜」を、一話ごとに異なる監督が10分程度の短編に纏めたもの。
漱石の原作はそれぞれがすぐに読める長さの短編で、突拍子もない展開で(なにしろ夢なのだから)ある。
映画を観ながらまったく原作が思い浮かばないものもあったし、原作を忠実になぞっているものもあった。
漱石の原作がすこぶる面白いので、あまりに原作にとらわれてしまうと、映画ならではの醍醐味が発揮できなくなってしまう。
そんな意味では、講演を頼まれた漱石が田舎の町へ出かけ、幼なじみの少女に再会する第4話(監督:清水厚)や、”鶏が鳴く前に”とささやく不思議な電話がかかってきて包帯だらけのお化けが出てくる第5話(監督:豊島圭介)、チューブのような得体の知れない生物を捕まえる第8話(監督:山下敦弘)は、原作の痕跡をほとんどとどめないぐらいにアレンジされていて、監督の想像力の豊かさを堪能した。
逆に市川崑監督の第2話や、西川美和監督の第9話は、あまりにも原作に忠実で、面白いとは思えなかった。
監督の創造力が跳んでいなくて、わざわざ映像にしてみせてくれる意味が感じられなかったのである。
原作からの刺激を受けて、それをなぞりながらも完全に別の世界を構築していたのは第1話(監督:実相寺昭)であった。
百年待っていてくれますか、と言って女が死んでいくのだが、時間が逆回りしたり、窓の外に大きな観覧車がまわっていたりと、映画ならではの美しさを味わった。見事。
また、第3話(監督:清水崇)は、背負った我が子が目しいているという、原作そのものも不気味な怪異譚なのだが、映画では身重の奥さんも登場させてさらに物語世界を深いものにしていた。
第6話(監督:松尾スズキ)は、時代劇なのに彫り師の運慶が終始ブレイク・ダンスを踊りまくるという呆気にとられるような作品になっていて快作。
第10話(監督:山口雄大)も豚丼にまつわるハチャメチャな展開ですばらしかった。
というわけで、映画を観たあとに、はて、漱石の原作はどうだったんだろうと、思わず読み返してしまいたくなる。
それほどにそれぞれの監督の創意がつまっている楽しい映画であった。
同じように見た夢を題材にしたものに黒澤明の「夢」があったが、やはり夢そのものの面白さが漱石には太刀打ちできていない。
だから、黒澤の「夢」では、映画そのものの「夢らしさ」もかなり負けていると思う。