あきりんの映画生活

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「夜行列車」  (1959年)

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1959年 ポーランド 100分
監督:イェジー・カヴァレロヴィチ
出演:ルチーナ・ウィンニッカ、 レオン・ニェムチック、ズビグニエフ・チブルスキー

夜行列車での群像劇。 ★★★★☆

高校生の頃に初めて観てから、何度観ていることだろう。
ストーリーも覚えてしまっているのに、それでも見直すということは、ストーリーだけではない何ものかに惹かれているわけだ。
それは、映画全体にあふれている情感としか言いようがない。

冒頭は、あわただしく人が行き来する駅のホームを俯瞰する場面で、そこにスキャットのジャジーなメロディーが重なる。
この出だしから、モノクロの美しい画面に魅せられる。

映画は、ワルシャワからバルト海沿岸へ向かう夜行列車に乗り合わせた人々の一夜の様子を描いている。
中心となるのは、若い恋人から逃げてきたマルタと、ふとした手違いから彼女と同じコンパートメントになった謎めいた男イェジー

その他にも、年老いた神父に付き添う若い神父や、夫に飽きて他の男に愛嬌をふりまく妻や、不眠症の男、それにマルタを追ってきた青年、などなど。
まったく異なる人生を歩いてきた人々が、限られた時間を限られた空間で共に過ごす、そしてすれ違っていく。

夕暮れの中を走る列車の窓の外を田園風景が流れすぎる。哀愁感がただよう。
マルタが窓を下ろすと、激しい風とともに列車の煙が流れ込んできたりもする。今のわが国の鉄道旅行ではなくなってしまった光景である。

冒頭で流れていたもの憂い印象的な曲は、映画の中でくりかえし流れる。
演奏部分では、ヴィブラフォンがメロディを奏でて、ベースと静かなドラムがそれにからむ。
乗り合わせた人々の思惑なんぞには無関心に淡々と走り続ける夜行列車の雰囲気によくマッチしていた。

マルタを演じた女優さんの、愁いを帯びた大きな眼が印象的であった。

一夜の間に人々にはそれぞれのドラマがおきる。
妻を殺した犯人が列車に隠れていて、真夜中に刑事が乗り込んできたり、明け方に急停車した列車から逃げ出した犯人の追跡劇もおこる。

そして長い夜が明け、カーテンを開けると、窓外には海が広がっている。
海辺のリゾート地のはずなのだが、映像はなぜか寒々しい風景を思わせる。光があふれているはずなのだが、風ばかりが強く吹いているような風景だ。
夜を同じ列車で過ごした人々は、またそれぞれの人生に向かってちりじりに別れていく。

終着駅で乗客が降りて、空っぽになった寝台列車の部屋をカメラが移動しながら映し出す。
日差しは明るくなったのに、ドラマが終わったあとの虚ろな、眠りたりないような気だるさが画面に流れている。

冒頭の、ドラマが始まる前のあの駅での喧噪が嘘のように思い出される。
こうして余韻を残して映画が終わる。
情感があふれる。
傑作である。