あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

アメリカ、家族のいる風景 (2005年)

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2005年 アメリカ 124分
監督:ヴィム・ベンダーズ
出演:サム・シェパード、 ティム・ロス、 ジェシカ・ラング

母に、子どもに会いに行く旅。 ★★★★

高い評価を得ている「パリ。テキサス」をかなり前に観たところ、いまひとつ面白く思えなかったので、私にはヴィム・ベンダースは合わないのだろうとと思っていた。
ところが、たまたま観たこの作品はツボだった。
どこが良かったのだろう? 私が年齢を経て変わった? それともベンダースが14年経って変わった?

西部劇俳優のハワード・スペンス(サム・シェパード)は、ある日撮影現場から馬に乗って逃亡してしまう。
自分の生き様に、不意に嫌気がさしたんだろうな。酒好きで、女好きで、どうしようもない生活を送ってきて、もう中年の盛りも過ぎた無責任などうしようもない男なのだから。
自分の人生に何も確かなことがなかったことに気づいたのだろうな。

ハワードは30年間も音信不通にしていた母を訪ねる。
この母親が良い(この母親役は、ヒッチコックのあの「北北西に進路をとれ」のエヴァ・マリー・セイント。歳をとっているが、やはり気品がある)。
久しぶりに(30年ぶりですよ!)会ったというのに、何事もなかったかのように息子を受け入れる。
長距離バスの停留所に息子を迎えに来たときにかぶっている帽子が可愛らしい。
ただただ息子を愛しているのだ、という母親の無償の愛があらわれていた。

母親から、かっての恋人が自分の子どもを産んでいるかもしれないと聞かされたハワードは、祖父が使っていた車に乗って、恋人が住んでいたモンタナをめざす。
砂漠の中のまっすぐな道。鄙びたモンタナの街。
強い日射しの中で、風景が鮮やかな色彩でくっきりと切り取られている。
モンタナがどのあたりにあるのか知らないのだが、乾いた風が吹き抜けていくようだった。
風景にかぶさる音楽も良かった。

中年過ぎの男が、いるかも知れない自分の子どもを捜して昔の恋人に会いに行くという設定は、ジム・ジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ」と同じ。
しかし、あちらの主人公(ビル・マーレイ)は過去が一切語られず、今を彷徨っていただけだったが、この作品のハワードは真剣に過去とも向きあおうとする。

かっての恋人ドリーン(ジェシカ・ラング)がまた良い。
やってきたハワードにすぐに気づき、恨むでもなく、何でもないような口ぶりで「会いに来るのにずいぶん長くかかったわね」と言う。
まあ、男が理想とする昔の恋人との再開シーンだろう。
そういえば、ジェシカ・ラングは、「ブロークン・フラワーズ」でもビル・マーレイのかっての恋人役を演じていた。

いい加減な人生をおくってきたハワードだが、彼なりに必死に過去と向きあい、現在の家族と向きあおうとする。
いきなりあらわれた父親に逆上した息子は部屋から家財道具を通りへ放り投げる。
路上に散乱する家財道具。ハワードはそのなかのひとつのソファに座り、じっと考え込む。
日が傾き、夜になり、それでも路上に放置されたソファで座りこんでいる。自分と家族の関係に誠実になろうとしていたのだろう。
好い奴なんだな、ハワードも。

最後、ハワードもドリーンも子ども達もそれぞれの元の生活に戻っていく。
それでも出会ったことによって何かが変わったはずで、それが気持ちの良い明るさにつながっていた。
祖父の旧式な車に乗り込んだ孫たちの笑顔も良かった。