1991年 日本 116分
監督:中原俊
出演:相島一之、 村松克巳、 豊川悦司
林美智子、 二瓶鮫一、 梶原善
わが国に陪審員制度があったら。 ★★★☆
私は論理的な考えが苦手で、他人の意見を聞くとなんでもなるほどと思ってしまう。
こんな性格の人は、きっと、わが国でも始まった裁判員制度には向いていないんだろうな。
この映画が作られたのは19年前。
裁判員制度などまだ考えられてもいなかった頃で、アメリカの陪審員制度がわが国でも行なわれたら、という架空の設定である。
もちろん、あのシドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」を下敷きにしていることは言うまでもない。
ある陪審審理のために、無作為に選ばれた12人の人物が集まる。
舞台はとある役所の一室で、その部屋で討論する12人の陪審員の会話だけで成り立っている物語。
三谷幸喜の書いた戯曲の映画化とのこと。
だから、映像的には単調となり、退屈しそうなものなのだが、これがすこぶる面白かった。
12人の陪審員は、性格などがやや極端に描かれているが、きちんと書き分けられているところはさすが。
議論が好きな人、そんなものは最初から面倒くさいと思う人。理論的な人、感情的な人。頑固で自説を曲げようとしない人、他人の意見に流されやすい人。など、など。
三谷幸喜はこういった群像劇のようなものが上手い。
事件の概要は陪審員達の発言で次第に明らかにされてくる。
被告は若く美しい人妻で、どうしようもない夫に復縁を迫られたあげく、走ってくる車に向かって夫を突きとばして殺してしまったというものである。
陪審劇というよりも、推理劇の要素がかなりある。
12人が雑然と言い合っているうちに、これまでは見過ごしていた事実が少しずつ明らかになってくる。
それにともなって、被告には殺意があったのか否か、計画性があったのか否か、などの判断が二転三転する。
被告が家を出る前に注文した宅配ピザ、被告が夫に買ってやったジンジャエール、被告が逃げる際に遠回りをした交差点、被告が鬼の顔のように見えたと証言した夫の顔・・・。
はじめは圧倒的に無罪と評決していた人たちが、次第に有罪に傾いていったりする。
非常に巧みな展開を見せる。面白い。
出演者は2名を除いては知らない俳優ばかりだったが、それがかえって、偶然に集まった普通の人たちという雰囲気でよかった。
ただ、舞台演劇畑の人が多かったのだろうか、演技がややお芝居がかっていて、動作や話し方に大げさなところが目につくところがあった。
豊川悦司はまだデビュー間もない頃らしかったが、前半は地味な目立たない役柄で、ただの一人かと思わせておいて、後半に入り俄然場をリードし始める。
さすがに華があった。
そんなふうに、陪審員制度の物語というよりは、”集団での安楽椅子探偵”の推理劇を楽しむという趣が強い。
だから、あの「キサラギ」が好きな人だったら、かなり満足するのではないだろうか。