監督:ロマン・ポランスキー
出演:レオン・ニェムチック、 ヨランダ・ウメッカ、 ジムグンド・マラノウッツ
3人の男女の心理劇。 ★★★★☆
若い頃に観たときは退屈してしまった映画。なんだ、大した事件も起きないし、登場人物も3人だけだし・・・と。
しかし今回、これほど緊迫した心理描写が続いていた映画だったのだと、見直した。
後にさまざまな映画を撮り、実生活でも事件を起こしたりしたロマン・ポランスキーの長編第1作。
ヨット遊びに出かけた裕福な夫婦が、偶然に行き会った貧しい青年を誘い、一緒に丸1日を過ごすという、物語の筋はそれだけである。
それだけなのだが、風が凪いだり、激しい雨が降ってくる1隻のヨットの上で、3人の感情が不安定に揺れる。
おそらく夫婦の関係は惰性で続いている部分があって(二人の会話には慣れ親しんだ様子はあるのだが)、お互いへの不満までも惰性のなかに埋没してるようだ。
だからそこへ青年が入り込んできたときに、夫婦の関係の惰性の部分が浮き上がってくる。
社会的には成功して裕福な生活を手に入れている夫と、何も持っていない代わりに失うものもない自由さがある青年、そしてその二人の間で揺れる妻。
青年が取りだすナイフは若さの象徴であろうか。
ナイフと同じように、若さには周りを傷つけてしまいかねない不遜さがある。
それを感じ取っている夫は、ナイフに対して恐怖を覚えながらも、それに対抗して自分の位置を誇示しようとする。
このまま行けば何かが起きてしまう、そんな緊張感が続く。すごい。
モノクロの画面は、狭いヨットのキャビンでの様子をとらえ、芦の茂った水辺を映す。
登場人物の行動に意味があるというよりも、その行動をとった心の動き、その行動によってもたらされる相手の心の変化、それが主眼となって描かれていく。
そんな心理的な緊張感は、色を排したモノクロ画面によく合っていた。
(以下、ラストの場面に触れます)
青年を殺してしまったと思い込んでいる夫、生きている青年と情交を持ったと告白する妻。
妻の言葉を信じない夫は、警察への道路標識が立っている分岐点で、果たしてどちらへ曲がるのだろうか。
それは、これからの夫婦の関係の分岐点でもあるのだろう。
派手な作品ではありません。気楽な作品でもありません。
しかし、お勧めできる作品です。