あきりんの映画生活

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「スケアクロー」 (1973年)

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1973年 アメリカ 113分
監督:ジェリー・シャッツバーグ
出演:ジーン・ハックマン、 アル・パチーノ

男の友情を描いたロード・ムービー。 ★★★☆

冒頭、乾いた強い風が吹き抜ける郊外の道路の両側に、ヒッチハイクをしようとしている二人の男がいる。
道はどこまでもまっすぐで、通りかかる車もほとんどない。
枯れた木の枝の固まりが風でころがってくる。
もう、この場面から好い。ていねいに撮られた映画だということが判る。

出所したばかりのマックス(ジーン・ハックマン)は、こつこつと貯めた大事なお金をピッツバーグに預けてあり、そこで洗車屋を始めようとしていた。
5年間の船乗り生活から陸に戻ってきたライアン(アル・パチーノ)は、まだ顔も知らないわが子に会おうと、デトロイトに行こうとしていた。

意気投合した二人は一緒に旅をすることになる。
図体が大きく粗野で喧嘩っ早く、誰かれともなく突っかかっていくマックスだが、ライアンにだけは気を許す。
そんな自分勝手な荒くれ男を、ハックマンが実にいい感じで演じている。

少しお人好しな感じのライアンは、人なつっこい。
ということは、他人との関係にとても気を遣っているのだろう。
彼は、しょっちゅう争いごとを起こしそうになるマックスをなだめては、ことをおさめようとする。
後年の掘りの深いパチーノが想像できないほどに、この映画でのパチーノは初々しい。
陽気に見えるのだが、傷つきやすい繊細さをもっていることが伝わってくる。

そんな二人はマックスの妹を訪ね、喧嘩沙汰を起こしては矯正農場で働かされたりしながら、珍道中を続けていく。
タイトルの「スケアクロー」とは”案山子”のこと。
ライアンによると、カラスは案山子を怖がっているのではなく、こんな愉快な案山子を作る農家の人は良い人だから畑を荒らすのは止めよう、と考えているのだという。
そして自分たちも滑稽な案山子だと言う。

ある意味、二人はとても愚かである。人間性も脆い。
そんな二人に、ピッツバーグには何が待っているはずだったのだろうか。
ささやかな夢、希望、そんなものが二人を真剣に支えている。
そこには案山子だと言って笑うことなんか、誰にもできない真剣さがあった。

最後、ライアンに思いもかけない事態が生じる。
まさか、こんなこととは、と、言葉を失う。
あまりにも切ない。
このときのマックスの必死の有り様も切ない。

そして、ライアンを残して、いよいよお金を取りにピッツバーグまで行こうとするマックス。
ピッツバーグで洗車屋をすることが夢だったマックスは、なけなしのお金を使って、なんと往復切符を買うのだ。
寝る時も大事に守っていた靴のかかとの中のお金まで使って・・・。
号泣ものである。

とにかくジーン・ハックマンが素晴らしい。
旅の途中ではややだれる部分もあったが、この最後にさしかかってからの物語は深い余韻を残す。

イージー・ライダー」とか「俺達に明日はない」とか、必ずしもハッピーエンドではない、苦い後味を残すものが多いアメリカン・ニュー・シネマといわれたジャンルの映画です。
カンヌでパルムドール賞を受賞しています。