あきりんの映画生活

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「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」 (2009年)

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2009年 香港
監督:ジョニー・トー
出演:ジョニ・アリディ、 アンソニー・ウォン

香港ノワールもの。 ★★★☆

かっての香港ノワールといえばジョン・ウー監督の「男たちの挽歌」シリーズだったが、トー監督はそれをさらにスタイリッシュにしている。
前作「エグザイル/絆」でも魅せてくれたこだわりの男の美学を堪能させてくれる。

マカオに住む愛娘が襲撃されて重症を負ったことを知った初老のコステロジョニー・アリディ)はパリからやってくる。瀕死の娘から犯人の特徴を聞き出したコステロは復讐を誓う。
しかし、レストランのオーナー・シェフであるコステロは、マカオの土地勘もなければ頼れる知り合いもいない。
さあ、どうする?

原題は単に”復讐”ということらしい。
それにこの邦題をつけるなんて、ちょっとやり過ぎじゃないかという気がしないでもない(苦笑)。
少し前のフランス映画の邦題に「裏切りという名の犬」とか「復讐という名の雨」とかいうのがあって、結構印象的だった。その路線を狙ったのだろうな。
この手の題名を見ると、ついDVDを手にしてしまう。すると、成功しているわけだ(笑)。

コステロは偶然に出会ったクワイアンソニー・ウォン)ら3人組の殺し屋に復讐の助っ人を依頼する。
お互いの素性もよく知らぬままにワケありの依頼をし、依頼を引きうける。
初めてであったときから感じ合うものがあったのだろう。男の連帯はこういうものなのだよ。
男の夢なのだよ、これは。

コステロが、庭で手料理をクワイたちにふるまう場面がある。
食事をしながら「お前は何者だ?」とクワイが訊ねる。「ただのシェフさ」とコステロが答える。「嘘つけ」とクワイはいきなりお皿を空中に放り投げる。素早く手にした拳銃でコステロはお皿を撃ち抜く。
好いねえ。言葉ではないんだよなあ。

実行犯をつきとめたクワイらは殺しに出かけるのだが、実行犯たちは家族とバーベキューを楽しむところだった。
「何故すぐに殺さない?」と実行犯たちが訊ねる。「家族がいる」と答えるクワイ。好いねえ。
和やかな団らんが済んで家族が引きあげたとたんに激しい銃撃戦となる。
乱れ飛ぶ薬莢。トー監督お得意の銃撃戦の美しさを堪能させてくれる。

本来は歌手であるジョニー・アリディだが、良い味を出している。
そういえば、シャンソン歌手のシャルル・アズナブールも役者としても良い味を出していた。
男たちの挽歌」にも出ていたアンソニー・ウォンは、お気に入りの俳優。香港ノワールには欠かせない顔である。

実はコステロは、頭に残っている銃弾のために健忘症となっていたのだ。
この愛娘の復讐のことさえもいつ忘れてしまうか判らない状態だったのだ。そしてついになにもかも忘れてしまう。
クワイたちは、それでもコステロとの約束を果たそうと、無謀な戦いに挑む。

現実的な損得なんてなし。一度誓った男の約束は何があっても果たす、それが男なのだ、う~む、マンダム。
荒野のような広場での銃撃戦は、さすがにトー監督の本領発揮。
激しい風が吹き荒れるなかで、男達が壮絶に散っていく。約束を果たそうとしきったことで満足そうな微笑みを浮かべて・・・。

ひとり残されて記憶力を失ったコステロは、もう仇の顔も名前も覚えてはいない。
そこで協力してくれる子ども達の貼り付けたシールを頼りに、仇に復讐の銃弾を撃ち込むのである。
コステロは、何故自分がこの男を撃ち殺しているのかも判ってはいない。自分の依頼のために3人の男たちが死んでいったことも、もう判ってはいない。
空しさである。

物語の様式美とでも言ったらいいのだろうか、徹底的に美しく思える物語をトー監督は紡いでいる。
それを味わって楽しむ映画です。