あきりんの映画生活

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「世界の終わりの過ごし方」 (2006年)

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2006年 ルーマニア 106分
監督:カタリン・ミツレスク
出演:ドロテア・ベトレ、 ティモティ・ドゥマ

革命前夜のルーマニアを描く。 ★★★

タイトルからは安手のSF映画か、あるいは死期の迫った人のヒューマン・ドラマかと思う。
しかし違った。”世界”とは国家のことだった。
1989年にベルリンの壁が崩壊する。その約1ヶ月後にルーマニアでは独裁専制政治をしていたチャウチェスクが倒されるという、ルーマニア革命が起きる。
この映画はこの革命前夜を描いている。監督は17歳の時にこの革命に遭っているとのこと。

しかし、堅苦しい政治映画ではない。
ルーマニアの首都ブカレストで生活する17歳の姉エバと、7歳の弟ラリの生活が描かれているのだ。

チャウチェスクによる独裁政治がおこなわれている当時のルーマニアの市民生活は、かなり貧しかったようだ。
首都でも時々停電があり、町の舗装は荒れており、バスの窓ガラスにはヒビが入っている。
(ちなみに、日本では昭和から平成に年号が変わり、映画「魔女の宅急便」が封切られたのがこの年)

主人公のエバは自我意識の強い、かなり強情な女の子。ほとんど笑わない。
エバは大統領の鏡像を壊して職業訓練校に転向させられてしまったり、そこで反体制主義者一家の息子、アンドレイと知り合ったりする。
彼と一緒にドナウ川を泳いで渡るという亡命計画を立て、氷を入れた浴槽に裸で入る練習をしたりもする。
アンドレイが独りで亡命していった後、彼女は国家警察官を父に持つアレクサンドルと付き合ったりもする。

まったく正反対の立場のボーイフレンドとつき合い、エバは必死に生き方を探しているように見える。
しかし、暗い時代が渦巻いていて、なかなかその道筋は見えてこない。
そんな生活の中で、弟ラリだけが愛くるしい。
エバやその両親や、他の出演者がほとんど笑わない沈鬱な映画の中で、唯一心を和ませてくれる存在であった。

そのラリがとんでもないいたずら(?)を画策して実行したその瞬間に、突如としてクーデターが起きて、独裁体制は呆気なく崩壊する。
人びとの生活は一転する。一般市民は歓び、アレクサンドル一家のようにこれまで権勢をふるっていた人たちはこっそりと去っていく。

エバを演じたドロテアは美人ではないのだが、意志がくっきりと表れている目鼻立ちで、この映画には適役だったと思える。
映画自体は暗い画面で説明は少なく、、それほど親切な作りではないので、ところどころで物語は少し判りにくい。
しかし、しっかりと地に足のついた映画だった。

ラストは家族の近況を伝えるラリからの手紙をよんでいるエバが映し出される。
そこは、チャウチェスク時代の貧しさとの対比が著しい豪華客船で、エバはキリッとした制服姿で、そこで働いているようだ。
新しい時代の象徴であり、新しい生き方をはじめたエバが輝いていた。
”世界の終わり”は独裁国家体制の終わりを示すと同時に、エバの青春時代の終わりを暗示していたのかもしれない。

この映画はNHKサンダンス映画祭の賞を取っています。
そして、エバ役のドロテア・ベトレはカンヌ映画祭のある視点部門で最優秀女優賞を取っています。