あきりんの映画生活

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「いつか読書する日」 (2004年)

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2004年 日本 127分
監督:緒方明
出演:田中裕子、 岸辺一徳、 仁科亜季子、 渡辺美佐子

10代で止まっていた恋物語。 ★★★☆

小さな地方都市でひっそりとくり広げられるささやかな恋物語
ほとんどスッピンではないかと思える田中裕子と、全然イケメンでもちょい悪おやじでもない岸辺一徳(二人とも50歳という設定)の、不器用な恋物語
そんな地味な物語が面白いのかと言われそうだが、2時間を惹き込まれて観てしまった。

50歳になっても未だ独身の大場美奈子(田中裕子)は、牛乳配達とスーパーのレジで働いている。夜はひとりで小説を読んで過ごすような、単調で静かな日を送っている。
高校時代の同級生だった高梨槐多(岸辺一徳)は、同じ町の市役所に勤めている。妻(仁科亜季子)は末期の癌で自宅療養をしており、献身的な介護をする日々だった。
実は、二人は高校時代には恋人同士だったのだが、ある事件をきっかけに二人とも心を封印してしまったのだった。

舞台は長崎。
坂の街で(雰囲気が尾道に似ている)、市内電車が走っている風景が、地方都市特有の穏やかさで美しかった。

美奈子は長い石段を上がったところにある槐多の家にも牛乳を配達していた。
いまなお密かな恋心を抱き続ける男の家に牛乳を届けるために、美奈子は毎朝この長い石段を駆け上がっていたのだ。
しかし、自分のこの気持ちをぜったいに知られてはならない、と思いながら。

塊多の方も、消えることのなかった恋心を押し殺して末期癌の妻につくしている。
毎朝6時に聞こえる牛乳配達の音を、おそらく塊多も布団の中で聞いていたのだろう。
余命が少ない妻も、夫の心の底にある気持ちに気づいてしまう。
そして美奈子に、会って話をしたい、という手紙を牛乳箱に入れる。

行方不明になった徘徊老人を、ひょんなことから一緒に探すことになった美奈子と塊多。
何十年かぶりに美奈子が川向こうにいる塊多の名を大声で呼ぶ場面がある。17歳の時と同じように。
その声に振り向いた岸辺一徳のなんとも言えない表情がすばらしかった。
ありえない声を聴いた驚き、30数年前に引きずり込まれた戸惑い、そんな感情が混沌とした表情だった。

(以下、ネタバレ気味)

二人の耐えて隠してきた思いは、塊多の妻の死後に通じ合う。
しかしそれは悲しいほどに儚げなものだった。
あのニコラス・ケイジメグ・ライアンのファンタジーを思い浮かべてしまった。

華やかさの全くない、地味な映画ですが、”無印良品”でした。

追記:
”無印”と書きましたが、調べてみると、モントリオール映画祭で審査員特別賞みたいなのをもらっていました。