あきりんの映画生活

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「推手」 (1991年)

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1991年 台湾 105分 
監督:アン・リー
出演:ラン・シャン

異国での老人は・・・。 ★★★

アン・リー監督の「父親三部作の第1作。
この映画がアン・リー長編映画の初監督作品とのこと。
それにしては、この静かな完成度はどうだ。さすがに第1作から好い作品を撮っていたのだなあ。

息子のアレックスに呼び寄せられてニューヨークで暮らしはじめた朱老人だったが、異国の地での生活はどうも落ち着かない。
息子の嫁マーサはアメリカ人で、言葉も通じず、食事も違い、生活風習も合わない。気まずくなるばかり。

言葉の通じない異国での孤独感がひしひしと伝わってくる。
なにしろ朱老人は太極拳の達人で、書の名人、京劇を楽しむという、中国文化の粋のような人物。
それに引き替え息子の嫁はブロンド・アメリカン。
誰が悪いわけではない。そりゃあマーサにしてみても、彼女の立場になれば無理ないなあと思えるし。
このあたりが実に上手い。

ご注意:
冒頭の、朱老人とマーサの何ともやり切れない二人の苛々感の場面。ここで観るのをくじけてはいけません。これがあるからこそ後の展開が生きてきます。
ここはじっと我慢して見つづけましょう(笑)。

二人の板挟みになるアレックスも辛い。
中国的な家長制度で育てられ、今はアメリカ的な夫婦生活をおくっているのだから、アレックスもその狭間で辛い。キレてしまうのも判る。
行き場のない朱老人が散歩に行ったまま行方不明になったときにみせたアレックスの激情が胸を打つ。
そしてアレックスがめちゃくちゃに壊してしまった家具を、言葉の通じない朱老人とマーサが二人で黙黙と片付ける。
印象的な場面。上手い。

ついに朱老人は、息子に書き置きを残して家を出てしまう。
一人で生活をしようとしても70歳の老人が仕事を見つけることは容易くない。
ついに、大勢の警官が駆けつける立ち回り騒動を起こしてしまったりもするのだが、この朱老人、何と言っても太極拳の達人なのである、警官たちが押しても引いてもびくともしない。
ここはとても格好良い場面であった。
中国武術、恐るべし。

この朱老人を演じるラン・シャンという俳優は、この後の「ウェディング・バンケット「恋人たちの食卓」でも父親役をやっていた。
どの作品でも演技がとても自然体である。好い俳優さんだなあと思う。
まったくタイプは違うけれど、小津安二郎監督作品の笠智衆のよう。

最後、中国人街で生きていくことを決めた朱老人は、同じように孤独な料理講師の陳夫人と再会する。
これからの朱老人の人生はどうなるのだろう、と思わせて映画は終わっていく。

もう長く生きてきたので、今さら生き方を変えられない頑固さがある。プライドもある。
そのくせ、誰かに必要とされたいという寂しさがあり・・・。
そんなことで身につまされる日がいずれ私にもやってくるのだろうなとも、思わされる映画だった。