あきりんの映画生活

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「赤い航路」 (1992年)

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1992年 フランス 140分
監督:ロマン・ポランスキー
出演:エマニュエル・セニエ、 ピーター・コヨーテ、 ヒュー・グラント、 クリスティン・スコット・トーマス

どろどろ愛憎劇。 ★★★

豪華客船に乗り合わせた二組の夫婦の物語。
下半身が不自由で車いす生活のオスカー (ピーター・コヨーテ) と、男を誘惑するような姿態の妻ミミ (エマニュエル・セニエ)。
もう一組のナイジェル (ヒュー・グラント) とフィオナ (クリスティン・スコット・トーマス) は、結婚7年目で醒めた夫婦関係になってきている。

物語の主軸は、オスカーがナイジェルに語るミミとの愛憎物語。
それは、これまでオスカーとミミがたどってきたあからさまな性生活の打ち明け話。
映画も回想場面へと変わっていく。

オスカーの話を聞かされるヒュー・グラント (おそらくはまだブレイクする前) が、善良な常識を備えた青年として好演していた。
いわば、観客の視線をグラントが代弁しているのである。
彼の存在がなかったら、ドラマはとてつもなく常識外れのものになっていただろう。
彼の常識的な戸惑いの反応が、観る者の常識をうなづかせてくれている。

お互いに一目惚れで結びついたオスカーとミミは、部屋から出ることもせずに何日間も愛欲にふけったりする。
それは次第にエスカレートしてSMプレイにも発展していく。
その刺激もやがて失われていくと、二人の思いの間にすれ違いが生じ始める。

自分勝手な夢を見つづけようとする男。
相手に寄りかかり、すべてを委ねようとする女。
この映画の主役はなんと言ってもミミであり、物語の中心はオスカーが語るミミの愛憎表現である。

ミミ役のエマニュエル・セリエはこのときポランスキーの奥さんだったはず。
すがりついてくるような可憐さと、男を虜にする魔性とを併せ持った女性を演じて、印象度が強い。

観ている者は、ナイジェルと一緒になってオスカーの話を聞いているわけだが、彼がやがて下半身不随になることを知っているわけだ。
はたして、どのような事件が起こって彼は下半身不随になるのだろうと待ち受けながら観ている。
それはあっと言うような展開によるものだった。
そのあとに続くオスカーとミミの物語は、さらに人間の本性をこれでもかと見せつけてくるようなもの。

このどろどろ愛憎劇の雰囲気は何かに似ているなと思ったのだが、ああ、そうだ、ジャック・リベット監督の「ランジェ公爵夫人」だった。
時代背景も、愛憎の表現もまったく異なるが、男と女の間の不思議なつながり具合が、それそれに本質的なところに迫っていたのだろうと思う。

どんよりとした後味が、いつまでも尾を引くような作品である。
官能的と評されたりもするようだが、そんな表面的なことは消し飛んでしまうような、男と女の心理的葛藤がすさまじい思いとして残る。

ポランスキーもいろいろと言われる監督だが、並みの才能ではないね。