2013年 香港 123分
監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、 チャン・ツィイー、 チャン・チェン
美のカンフー・アクション。 ★★★★
カンフーの世界では有名な人物であるイップ・マンの後半生を描いている。
さらに、彼の周りでカンフーの様々な流派を継承していく人々を描いている。
カンフーの戦いの場面を、ウォン・カーウァイならではの美しい”絵”で見せてくれる。
冒頭に、いきなり雨の中のカンフー・アクション場面となる。
スロー・モーションで突き出される拳が映し出される、跳ね上がる脚が映し出される。
雨の雫が美しくアクションを濡らす。
あ、これはまるで「HERO」冒頭の、雨の中の果たし合い場面のようではないか。
おまけに、チャン・ツィイーが美しいワイア・アクションで体技を見せてくれるとなれば、あれ?「LOVERS」を思い出すけれど、これはチャン・イーモー監督作ではないよなあ(苦笑)。
物語は1930年代からはじまり、日中戦争を挟んでの時代が、カンフーの伝承者達を翻弄する。
引退を決意した北の八卦掌の宗師は、南北カンフー統一の使命を託す後継者を探す。
候補者は一番弟子のマーサンや、宗師の娘であるルオメイ(チャン・ツィイー)だったが、後継者となったのは南の詠春拳の宗師であるイップ・マン(トニー・レオン)だった。
不満を抱いたルオメイはイップ・マンと戦う。
激しい二人の戦いなのだが、激しいほどにそれは情が通い合う技の応酬でもあるようだ。
最後までプラトニックながら、お互いに好意を抱き続けた二人の思いが切ない。
(といっても、イップ・マンにはちゃんと奥さんと子どもがいたのだが)
父を弟子だったマーサンに殺されたルオメイは、その仇を討つために、女として生きる幸せの道を捨てる。
雪が降りしきる北国の駅での、ルオメイとマーサンの果たし合い。
ここでもチャン・ツィイーは凛として美しい。余分なものをそぎ落とした研ぎ済まされた美しさである。
そして、雪の中を動き出した列車を背景に、プラットホームでの二人の戦いは見事というほかはない。
凍てつくような寒さまでもが武術の禁欲的な側面を伝えてくるようだ。
ルオメイと一瞬だけ人生が交差するカミソリ(チャン・チェン)。
抗日活動をして官憲に追われたりもしていた彼は、八極拳の伝承者で、これまた強い。
街のならず者を倒して道場主となり、技を伝えていく。
ただ、彼だけはまったく別の物語で、イップ・マンたちの主な物語に絡んでくることはなかったためにちょっと浮いてしまっていた。
終わり近く、時代の波の中でルオメイは薄幸のままに死んでいったことが、イップ・マンの独白で語られる。
う~ん、切ないなあ。
とにかく美しい肉体アクションの場面を観る映画。
あまりに美しい肉体アクションは、そこに秘めた精神性さえもあらわしてくる。
カーウァイ監督はそこまでを狙っているのだろうと、これは勝手に推測して、満足して見終わった。