監督:フィリップ・リオレ
出演:サンドリーヌ・ボネール、 フィリップ・トレントン、 グレドリー・デランジュール
落ち着いた雰囲気の悲恋物語。 ★★★★
フランス映画の悲恋ものは、どうしてこんなに雰囲気があるのだろう。
どこが違うのかと言われても返答に困るのだが、ハリウッドものとは明らかに違う。
話の筋立ては、言ってみれば「マディソン郡の橋」と一緒。しかし、その雰囲気、悲劇性の表し方はまったく違っている。
舞台は、1960年代のフランス西北部のブルターニュ地方の大西洋に浮かぶ島。
暗い天気が続き、打ち寄せる波も高く荒い。
岩礁の上に立つ灯台は交代で管理する灯台守によって、嵐の夜の灯りも維持されてきていた。
そんな島にアルジェリア戦争の帰還兵アントワーヌ(グレゴリ・テランジュール)が、新しい灯台守としてやってくる。
閉鎖的な村人は彼を余所者として追い出そうとするのだが、灯台守のチーフであるイヴォン(フィリップ・トレトン)は、率先して彼を受け入れようとしてくれる。
このイヴォンが、無骨なのだが義理にあつい本当に好い人であるところが泣かせるのだ。
彼らが守っているこの灯台がすごい。
海の中に立つ灯台へ行くためには、荒海の中を近づいた船からロープを伝ってたどり着かなければならない。
この北の荒海の中で打ち寄せる高波にさらされている灯台は、運命に翻弄されながらもじっと耐えている3人の登場人物の心の有様を暗示しているようだった。
アントワーヌは、なんと自分に好くしてくれているイヴォンの妻マベ(サンドリーヌ・ボネール)と許されない感情を抱き合うようになってしまうのだ。
そして村の祭りの晩にただ一度だけ、関係を持ってしまう・・・。
マベも夫イヴォンを愛している。それなのにアントワーヌへの思いも抑えきれない。
マベを演じるサンドリーヌ・ボネールといえば、ルコント監督の「仕立て屋の恋」の、あのヒロイン。
つい先日も、同じルコント監督の「親密すぎるうちあけ話」でも観たばかりだった。調べてみると、これ、同じ年の映画だった。
島を自転車に乗って走るマベの姿が印象的。
(以下、ネタバレ)
短い時を過ごしてアントワーヌは島を去って行く。
そして、その後でマベが産んだ一人娘を、イヴォンは(なにもかも知った上で)可愛がって育てたのだ。
映画は、実はその一人娘が誰も住まなくなった島の生家を久しぶりに訪ねるところから始まっていた。
そして彼女が、後のアントワーヌが書いて送ってきていた小説を読むという形で物語は進んでいたのだ。
誰も悪人はいないのに、それでも重い内容の悲恋である。
しかし、現在の一人娘の様子を見ることによって、なんだかほっとした気持ちになるのでした。