あきりんの映画生活

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「北のカナリアたち」 (2012年)

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2012年 日本 122分
監督:阪本順治
出演:吉永小百合、 柴田恭兵、 満島ひかり、 宮崎あおい、 松田龍平、 小池栄子

湊かなえ原案の人間ドラマ。 ★★★

湊かなえの小説は、登場人物たちが心の奥底に閉じこめた(不気味な)感情を、独白体などで次第に露わにしていく。
どろどろとした感情が黒く渦巻く。
「告白」や「夜行観覧車」など映画やTVドラマになったものもある。
今作は手紙のやりとりだけの小説「二十年後の宿題」を原案にしているという。
一体あの小説をどんなふうに映画化したのだろう? 
実は、”原作”ではなく”原案”というところがミソだった。

図書館司書を定年で辞めた川島はる(吉永小百合)のもとへ刑事が尋ねてくる。
20年前に彼女が受け持っていた教え子の一人が殺人を犯して逃亡中だとのこと。
はるは、かっての教え子たちに会いに、追われるようにして去ってきた北海道の離島へ出かけることを決意する。

物語の舞台を北海道の離島にしているところが、まず秀逸。
カメラがとらえる雪の風景、荒れる海の風景が美しい(カメラは木村大作)。
厳しい自然と、その中で閉ざされた社会での濃密な人間関係を、物語の背景にうまく持ってきていた。
小説は文字だけで物語を伝えてくるが、映画は映像と音で物語を伝える。
その特質をよく生かしている。

はるは、夫婦で移り住んだ北海道の離島で小学校教師をしていたのだった。
島の小さな分校にいた6人の生徒にはるは歌うことの楽しさを教え、島に子供たちの歌声が流れる。
そんなある日に、海辺でバーベキューを楽しんでいたはる夫婦と生徒たちを突然の悲劇が襲う。
その事件を原因に、はるは一人で島を追われるように去る。

小説には出てこない”歌”もまた効果的に使われている。
もちろん映画のタイトルの”カナリアたち”は歌を教えられた子供たちであるし、「先生が島を追われた日、私達は歌を捨てた。」という惹き文句もドラマを暗示して成功している。

吉永小百合はなかなか好い映画に恵まれないと、(サユリストの私は)個人的には思っている。
彼女ぐらいになってしまうと、どんな役柄を演じさせたらいいのか、用いる方も難しいのだろうなあと思う。
吉永小百合高倉健は、変な用い方をしたら全国のファンから総スカンを食らうのが目に見えているし(苦笑)。

この映画でいえば、20年前の川島はるを同じ人物が演じるのは、さすがにちょっと違和感があった。
といっても、誰に演じさせたらよかったのかも思いつかないのだが・・・。

はるが再開する成長した6人の教え子の配役は豪華そのもの。
女の子3人が満島ひかり、 宮崎あおい、 小池栄子、そして男の子3人が松田龍平、 勝地涼森山未來
すごい顔ぶれだなあ。

あの事件に対して抱いていた6人の生徒の気持ちが、ひとつずつ露わになっていく。
そして川島はる自身にも、生徒達に告げなくてはならなかった事もあったのだ。
あの事件の時には、実は・・・。

映画の最後の方で”歌を忘れたカナリア"が歌われる。
歌を忘れたからといって責めてはいけない、優しく接してやれば忘れた歌をまた思い出す、いう歌詞は、生徒達の心情を表していて象徴的だった。

ということで、それほどどろどろという内容ではなく、清々しい感じで見終わることができた。
映像と音(音楽)という映画の特質をよく生かして、小説とは異なる魅力を持った作品となっていた。

(余談)
全く関係ないことなのだけれど、知り合いの息子さんが役者さんとして出演していました。
始めの方と終わりの方で川島はるに会いに来る役どころです。
クレジットの端の方に名前が出ていました。秘かに応援しているのです。