監督:石井裕也
出演:松田龍平、 宮崎あおい、 オダギリジョー
辞書作りの真面目なドラマ。 ★★★☆
辞書はかなり好きな方である。我が家にあるのは「広辞苑」。
これまで何気なくお世話になっていたのだが、考えてみればこんなに分厚い辞書も、はじめに作った誰かがいるわけだ。
こんな膨大なものをどうやって作った?
この映画はそんな知らなかったことも教えてくれる。
玄武書房社員の馬締(まじめ)光也(松田龍平)は、営業にはむかないような口べたな地味~な青年。
しかし言葉に対するセンスが良いことから、辞書編集部に回される。
そこにいたのは、ただただ”言葉”と向き合い続けている人たち(加藤剛、オダギリ・ジョー、小林薫)だった。
そして新しい辞書を作るという一大事業が開始される。
”右”という言葉をどう定義するか、という質問がなされる。
しごく当たり前の言葉をあらたまって定義しろといわれると、困惑する。
映画のなかに出てきた定義は、”西を向いた時に北にあたる方向”、あるいは”10という文字の0の方”。
なるほどなあ。辞書を作ろうと思ったら、そういうことばかり考え続けるのだな。
面白かったのは用例採集という作業。
新しい言葉の使われ方をとにかく集めてカードに記録しておく。
辞書を作ろうと思ったら、毎日が言葉との格闘になるわけだ。これは大変だ。
映画のもう一つの軸が、馬締と香具矢(宮崎あおい)の恋物語。
調理師をめざしている下宿の叔母さんの孫・娘香具矢に、馬締は一目惚れをしてしまうのだ。
どこか世間の一般常識からは外れているような馬締と、しっかり者の香具矢のやりとりが、真面目なだけにユーモアが生まれてきていて、ほんわかとしていて好かった。
一つの辞書を作るのに15年の歳月が流れる。
いくつかの大きな障害も起こるのだが、必死にそれをクリアしていく。
皆がそれぞれに歳を取る。
そして辞書が完成する。
言葉の海でおぼれかけそうになった馬締も、最後には穏やかな海を香具矢と一緒に眺めている。
言葉の海を渡る舟を作り上げたわけだ。
原作は三浦しおん。
彼女の作品は「強い風が吹いている」や「まほろ駅前多田便利軒」と、どれも好い映画になっている。
この映画も辞書作りという地味な題材なのに、ダレルこともなく見入った。
日本アカデミー賞で6冠に輝いたはずです。