あきりんの映画生活

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「もうひとりの息子」 (2012年)

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2012年 フランス 101分
監督;ロレーヌ・ラヴィ
出演;エマニュエル・ドゥヴォス、 アリーン・オマリ

我が子の取り違え。 ★★★☆

日本映画でも「そして父になる」という子供の取り違えを扱った作品があった。
本作ではそれ、子供の取り違えがよりによってユダヤ人とパレスチナ人とのあいだで起こる。
しかも、そのことが判明するのは子供たちが18歳になってからだったのだ。
今更どうする?

テルアビブに住むイスラエルユダヤ人ヨセフは、徴兵検査を受けて両親との血液型が合わないことが判明する。
18年前の湾岸戦争の際に爆撃されていた病院からの避難の際に新生児が取り違えられていたのだ。
その相手はパレスチナ人のヤシン。

同じ民族の子供同士が取り違えられたのではなく、根深い対立が続くイスラエルパレスチナの子供が入れ替わっていたのだ。
今まで自分をユダヤ人と信じて兵役に就こうとしていたヨセフは、自分が壁を隔てた居住地に住むパレスチナ人だったことを知る。
逆に、分離壁の中に封じ込められたパレスチナ人の子ヤシンは、自分たち民族を封じ込めているユダヤ人の子供だったわけだ。

これは混乱する。
これまで育てられてきた家族が他人だというばかりではなく、民族というものまで全く逆の立場のものになる。
アイデンティティが揺らぐのはよくわかる。

それぞれの家族が初めて顔を合わせる場面がある。
訪問する側もぎごちないし、迎える側もぎごちない。
親は ”もう一人の息子” にどう接すればよいのかわからない。息子たちも生みの親にどう接すればいいのかわからない、それも育ての親の前で・・・。

裕福な環境にある支配者側の家庭と、貧しい環境にある被支配者側の家庭。
ヨセフの父はイスラエル軍の大佐。息子だと思っていたヨセフがパレスチナ人だったと知って困惑する。
一方、ヤシンの仲のよかった兄は、ヤシンがイスラエル人だったことを知ってからは「お前は敵の子供だ」といって反発するようになる。
誰も悪くないのに、皆が気の毒。

両方の家での事実を知っての反応は、父親と母親で異なっている。
父親がただただ混乱してとまどい、事実から目をそらせようとするのに対して、母親は積極的に受け入れようとする。
育ての母親としての愛情と、生みの母親としての愛情を、どちらも二人の子供に与えようとするようだ。

二人の息子たちは交流を深めていく。
自分たちにはそれぞれ二人の父と母がいることを受け入れようとしていく。
現実問題としては、それほど簡単に気持ちが前向きになれるものではないだろうとは思うのだが、映画は希望的に終わっていく。
よかった。

日本映画の方は観ていないのだが、あちらは子供がまだ6歳という設定のようなので、切り口がかなり違うのだろうなあ。

東京国際映画祭でグランプリと最優秀監督賞を獲っています。