2004年 日本 75分
監督:市川準
出演:イッセー尾形、 宮沢りえ
村上春樹原作。 ★★★☆
「トニー滝谷の名前は、本当にトニー滝谷だった。」とはじまる同名の村上春樹の短編小説を映画化したもの。
この映画や「ノルウェーの森」を観る半分以上の人、いや大部分かもしれないが、は村上春樹のファンなのだと思う。
あの文体の持つ独特の魅力に魅せられている人が観るわけだ。
(ちなみに、私は村上春樹の処女作からの初期三部作はすべて初版本を持っているというファンである)
それをどうやって映像化するか、だ。
結論から言って、村上春樹独特の空気感はかなり出せていたのではないだろうか。
淡く押さえた色調の画面ははかなげで、二人(三人)の登場人物のはかなさにもよく合っていた。
主人公のトニー滝谷はずっと独りで生きてきたような人物。
それを寂しいとも思っていなかったようなのだが、イラストレーターになったトニーの担当編集者である小沼英子(宮沢りえ)に恋をする。
そして彼女と暮らし始めたトニーは、逆にはじめて彼女を失ったときの孤独の怖ろしさを思う。
そして本当にトニーは彼女を失ってしまう。
宮沢りえがきれい。透明感がある。
英子は洋服の買い物中毒だったのだが、そんな女性なんて、普通に考えれば引いてしまう。
しかし、この映画の彼女なら中毒になってしまうやりきれなさのようなものまで美しく思えてくる。
トニーには膨大な数の英子の服や靴が残される。これをどうする?
台詞は極端に少なく、ほとんどをナレーションですすめていく。
おそらく原作の言い回しなのだろう(照らし合わせてはいないのだが)。
静かな映画。
「ノルウェーの森」よりも成功していたのではないだろうか。