あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「駅 STATION」 (1981年)

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1981年 日本
監督:降旗保男
出演:高倉健、 倍賞千恵子、 烏丸せつ子、 いしだあゆみ

男の哀愁。 ★★★★☆

脚本が倉本聰、監督が降旗康男、カメラが木村大作、そして高倉健主演とくれば、これは並以上の映画は約束されたようなもの。
一つの駅を舞台に3つの物語が連作オムニバスのように描かれる。
この映画、高倉健作品の中でのマイ・ベストである。

1967年。オリンピックの射撃選手として選ばれた警察官の英次(高倉健)は、(おそらく)ただ一度の過ちを犯したであろう妻(いしだあゆみ)と雪の駅で別れる。
幼い息子を連れた妻は、列車のデッキで泣きそうな笑顔で敬礼をして去って行く。

冒頭の短いエピソードなのだが、この場面からもう台詞をこえた情感があふれている。
そうなのだ、この映画は言葉では語らない。
余分な説明もなく、ただただ映像が言葉以上のものを語ってくるのだ。いいなあ。

1976年。連続通り魔を追う英次は、犯人の妹すず子(烏丸せつ子)を見張るために張り込みをする。
すこし頭が甘いような彼女につきまとうチンピラ役に宇崎竜堂。
そして英次たちが秘かに追い続けたすず子の前に、逃亡していた兄が姿を現す。
鄙びたローカル線の線路の上を彼方から歩いてきたのは、ああ、根津甚八ではないか。
こういう古い映画では、こんな人が出演していたんだったと思わぬ顔を見つけるのも、(映画の本質とは関係ないのだが)楽しい。

1979年の大晦日。故郷の雄冬に帰ろうとした英次は連絡船が欠航してしまい、いつかの駅前に宿を取る。
ふらりと入った居酒屋は、桐子(倍賞千恵子)が一人で切り盛りしていた……。

この3つめのエピソードがなんと言っても、好い。
倍賞千恵子の持つどことなくうらびれた風情が、日本人には直接的に伝わってくるのだ。

誰もが自分の家の暖かいコタツに入って家族と過ごしているであろう大晦日のひととき。
家族と一緒でない見知らぬ男と女が、場末の酒場でお酒を飲んでいる。
TVの紅白歌合戦では八代亜紀が「舟歌」を歌っている。この歌が好きなのよ、と呟く桐子も一緒に歌う。
謡曲が映画の中でこれほど効果的に使われたのを観たことがない。

天気の回復を待つ何日間かに親しくなった二人。町へ一緒に映画を見に出かける。
そして、ホテルでのコトを終えたあとに、桐子が「私、大きな声を出さなかった?」と訊ねる。
英次は「いや、そんなことはなかった」と答えるのだが、心の声で「樺太まで聞こえるかと思ったぜ」と呟く。
真面目な二人だけに、なにか微笑ましいユーモアがある場面で、印象的だった。

別れた妻へかける電話、その後も健気に働いているすず子、そして桐子との大きな運命いたずら。
映画は、一人の男の生き様が駅や駅前の小さな町を舞台に描かれていた。

邦画のもつ良さのひとつ、情感がこれほどにあふれている映画はやはりなかなかない。
これは哀愁を帯びた男の映画であり、それと同時に、哀愁を帯びた男と女の映画でした。