2013年 アメリカ 122分
監督:アントン・コルベイン
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、 レイチェル・マクアダムス、 ウィレム・デフォー
冷徹な諜報もの。 ★★★
原作は、ヨーロッパ・スパイものといえばこの人、ジョン・ル・カレ。
彼自身もMI6の諜報員だったというから、リアリティは十分にあるわけだ。
それもあってか、彼の描くスパイものは「裏切りのサーカス」もそうだったように、どこかやりきれないような哀愁感がある。
舞台はドイツのハンブルク。
北の方にある都市というイメージのせいか、風景がどこか寒々しい。映画の雰囲気もなんとなく寒々しく、気持ちがすさんでいるよう。
諜報機関バッハマン(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、イスラム過激派の一員と思われるイッサをマークする。
そのイッサは、人権団体の弁護士アナベル(レイチェル・マクアダムス)を介して銀行家ブルー(ウィレム・デフォー)と会おうとする。
スパイものだが、渋くて、そしてとにかく暗い。
マティニを片手に美女を口説くなんてこととは無縁。銃撃戦をしながら派手なカーチェイスをするなんてこととも無縁。
本物の諜報員は、その存在を知られること自体がすでに命取りなのだ。
諜報活動のすべては陰での暗躍にかかっている。厳しい世界だなあ。
イッサを捕らえて情報を得ようとする別組織。
イッサを泳がせてさらに上部の大物を逮捕しようとするバッハマン。
そこにバッハマンを出し抜いた過去もあるアメリカ・CIAも絡んで、いろいろな思惑が交差する。
ル・カレのスパイものは、諜報機関という組織の中での個人を描いていく。
組織にいかに忠実であるか、そして自分の信念にいかに忠実であるか。その葛藤も描いていく。厳しいなあ。
フィリップ・シーモア・ホフマンは、この映画の公開前に急逝している。
主役作品としては、この映画が最後。
鈍重な雰囲気なのに、ものすごい緊張感を出していた。さすが。
惜しい性格俳優だった。
ソ連軍人だったイッサの父が秘かに残した莫大なお金。
それを餌にして、テロリストに武器供給をしている大物人物を罠にはめようとするバッハマン。
はたしてその企ては成功するのか。
バッハマンと反目するドイツの別諜報機関はどう動く? CIAの思惑はどのようになっている?
誰よりも狙われていた男は、どうなる?
映画の最後、バッハマンの無念の叫びは、ホフマン自身のこの世に残した叫びのように思えてしまった。
エンドロールに流れる曲はトム・ウェイツ。
この曲がまた大変に素晴らしく印象的だった。