あきりんの映画生活

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「アンチクライスト」 (2009年)

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2009年 デンマーク 104分
監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ウィレム・デフォー、 シャルロット・ゲンズブール

悲嘆の(罪悪感の)狂気。 ★★★☆

ラース・フォン・トリアー監督のことなので、覚悟してみる必要がある。
判ってはいたことだったが、それでも見終わって茫然自失。
さすが、と言うべきか。とにかく精神的に受ける衝撃度は半端ではない。

物語は、言葉で言ってしまえば簡単に終わってしまう。
夫とのセックスに耽っている間に、幼い我が子が窓から転落死してしまう。
その悲嘆と罪悪感から妻(シャルロット・ゲンズブール)は精神を病んでいく。
セラピストの夫(ウィレム・デフォー)は、そんな妻を治すべく、二人で森の奥の山小屋で暮らすことにする。

映画は、プロローグ、悲嘆、苦痛、絶望、3人の乞食、そしてエピローグの全6章で構成されているのだが、全編、ウィレム・デフォーシャルロット・ゲンズブールの二人芝居。
場面は非常に美しい。
特にモノクロのスローモーションで撮られたプロローグとエピローグの映像は詩的である。

しかし、描かれる性描写と残酷描写は、とても我が国で上映できるものではない。
映倫の許容範囲なんて、そんなものはせせら笑うように遥かに超えたところにある。
ゲンズブールは精神を病んでいく様も真に迫っていたが、性に関する体当たりの演技もすさまじいものだった。

主題は、勝手な解釈によれば、おそらく女の原罪のようなもの。
英語タイトルの「anti christ」の最後のTが♀になっている。
神に対する悪魔とは、女性という「性」そのものに潜む罪であるということではないだろうか。
カンヌ映画祭では女性に敵対する作品だという評もあったらしい)

妻の狂気が加速していく。
我が子を死なせてしまったときに自分は”母”ではなく”女”だったという罪悪感があったのだろう。
しかし、その悲嘆を和らげるものもまた”女”としての性欲。
罪悪感が泥沼に入り込んでいく。
そして、ついには正視するのもおぞましいような行為に出る。

妻の病を治そうとやって来た森もまた象徴的な場所。
“悲嘆”の象徴である鹿は出産途中で胎児を半分ぶら下げているし、木から落ちてきた鳥のヒナには蟻がたかり、さらに怖ろしい鷲のような鳥がそのヒナを食べてしまったりする。

妻のおぞましい行為は、当然ながらボカシが入るのだが、想像するだけで、文字通りイタイ。
妻は夫をある方法で(痛い!)拘束し、、性欲をになう肉体部分を失わせようとする。
そして女としての性欲をになう部分も、自ら失なおうとする
そんな行為の果てに在るものは・・・。

フォン・トリア監督、あなたはやはり正常な神経の持ち主ではないですよね、常人には撮れません、こんな映画は。
最後に「アンドレイ・タルコフスキーに捧げる」との献辞が出ました。
へえ、そうなんだ。

並の映画ではありません。
これに比べれば「メランコリア」は精神的な鬱気分だけだったからなあ。

体当たり演技だったゲンズブールは、カンヌ映画祭で主演女優賞を取っています。